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前回のコラムでは、本質的に地方経済を活性化させるためには、地方に権限を委譲することについてコメントしました。
より好ましい状態は、地方が独自財源を持ち、地域の自由度を高めることができる姿でしょう。自治体が何かを行うために、常に中央にお伺いを立てているのであればスピードが遅くなってしまいます。また、中央からの財源をあてにしているのであれば、いつまでたっても地方は自分たちで考えなくなるからです。

大企業の子会社が現在、同様の課題で頭を悩ませています。バブル当時は、大企業に大量の仕事発注がありました。それを効率的にこなすため子会社を多数設立して地域の仕事をこなしていました。そのため100%出資の子会社は、自分で営業努力をすることなく仕事を継続することが出来ました。しかし、昨今仕事量が激減して親会社以外の仕事を増やさなければ自分たちの会社が成り立たなくなっています。そこで新規ビジネスの模索を行っているのですが、子会社の多くは親会社だよりです。仮に、独創的なアイデアを考えたとしても親会社の承認を得ることができなく、何も進まないで売上だけが減少しています。

21世紀は、情報とモノとお金と人の流れが自由になっています。自治する組織の自由度が高くなれば、それに対応する組織も柔軟に動け、その地域にあった仕組みを作ることができます。本来の意味の自治を作る改革です。

地域の自由度にはいくつかの分類があります。まずは、経済特区、保税区、自由貿易区などの各種特区です。こちらは特定分野を、特定区域のみ制緩和します。中国の経済特区や日本の構造改革特区などが相当します。次に、特別自治州などがあります。こちらは特定の地域のみ、地方政府が独自に政策を立案、実行します。それ以外の地域は中央政府が立法権を持ちます。韓国の済州道やマカオや香港、スペインのバスク地方が相当します。そして道州や連邦制があります。地方政府全てが立法権を持ち、中央政府との役割を明確に規定しています。アメリカ合衆国、ドイツ連邦、スイス連邦などが相当します。モレをなくすために分離独立という分類もあります。地方が中央政府から離脱して国家として独立する形態です。セルビアから独立したコソボ共和国やインドネシアから独立した東ティモール民主共和国などが相当します。

整理してみてわかるように、地域が栄えているところは、地方が権限を持ち、中央と明確に役割を分離している地域です。日本が参考にすると良いと思う地域にイタリアがあります。イタリアでは第二次世界大戦後から1960年代頃までは中央集権モデルでした。戦後、東西冷戦の構図の中で共産勢力に対する東の砦として中央集権体制を強化したのです。結果、重厚長大産業を中心とした戦後復帰を果たします。1970年代から1990年代頃には地方分権を開始し、産業政策を州に権限移譲します。州、自治体、業界団体が独自の産業政策を実施し、企業と共同研究プロジェクトなどの各種施策を実施しました。80年代のイタリア企業の躍進の背景がここにあったのです。結果、中小企業、職人企業などの産業集積を中心に発展を遂げます。2000年代頃より地方分権の動きは国際化に向かい始めます。州、自治体、業界団体が産地企業の国際化支援プログラムを展開します。当然ながら産地によって温度差が生じ、成功した地域に人が流れ人件費が高騰します。今度は、失敗した地域が安い人件費を活用して再び成功を遂げます。つまり、自由競争によって良い循環が生まれていったのです。結果、各地域は独自の取り組みをおこないました。例えば、高級ブランド化の路線、規模の集約化を実現する地域、海外市場を開拓する地域等々です。

一方、日本はどうでしょうか。よく我々が普通に耳にする都道府県に対しては明確な定義がないため、実際の権限を与えるにも実態がないからあやふやになっているのです。従って、地方創生の第一歩としてまずは行政区分を定義することがポイントになります。本当か?と思う方は、地方自治について規定する憲法第8章を読んでみるとよいでしょう。実際、世田谷区の人口は89万人。都道府県の人口を見てみると、世田谷区よりも少ない地域は、山梨(83万人)、佐賀(83万人)、福井(78万人)、徳島(75万人)、高知(72万人)、島根(69万人)、鳥取(57万人)と2015年10月1日の人口速報を参考にしても7県もあるのです。これもそのはず、憲法には区の定義も市町村の定義もありません。

地方創生の第一歩は、創生する主体は一体何か?ということをクリアにすることでしょう。マーケティングを行う際も、商品や価格や流通経路や販促活動を考える前に、それは誰に対してなの?とターゲットを明らかにします。そう考えると地方創生にはターゲッティングが存在しないのです。日本の自治の問題点は都道府県や市町村という名称を使いながら、実生活として自治されているにもかからわず、実はその定義がぼんやり、あいまい。そのために何に権限を与えてよいのかわからず中央集権が続いているのです。

イタリアでも、アメリカでもドイツでも中国でも、地方に対して権限をあたえ、中央との違いを明確に定義しています。日本も地方創生をスタートするのであれば、この議論を始めることが寛容だと思います。

次回は、これまでの地方創生のプロジェクトを振り返り、成功事例がなぜ少ないのか? 権限という観点から見ていきたいと思います。

参照:2016年3月 向研会資料
参照:イタリアの地方分権の道程と産業クラスタの形成(小門裕幸)
参照:都道府県人口ラインキング http://uub.jp/rnk/p_k.html
参照:世田谷区Webサイト http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/107/157/692/694/1888/d00121945.html

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biznavi
早嶋 聡史 氏
(はやしま・さとし)
株式会社ビズナビ&カンパニー 代表取締役社長
株式会社ビザイン 代表取締役パートナー
株式会社エクステンド 取締役
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事

長崎県立長崎北高等学校、九州大学情報工学部機械システム工学科、オーストラリアボンド大学経営学修士課程修了(MBA)。
横河電機株式会社の研究開発部門(R&D)にて産業用ネットワークの研究に従事。MBA取得後、海外マーケティング部にて同社主要製品の海外市場におけるブランド戦略・中期経営計画策定に参画。B2Bブランディングの先駆けとして後に知られるようになったVigilanceという力強いブランドキャンペーンを実施。退職後、株式会社ビズナビ&カンパニーを設立。戦略立案を軸に中小企業の意思決定支援業務を行う。また成長戦略や撤退戦略の手法として中小企業にもM&Aの手法が重要になることを見越し小規模のM&Aに特化した株式会社ビザインを設立。更に、M&Aの普及活動とM&Aアドバイザーの育成を目的に一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立。現在は、売上規模数十億前後の成長意欲のある経営者と対話と通じた独自のコンサルティング手法を展開。経営者の頭と心のモヤモヤをスッキリさせ方向性を明確にすることを主な生業とする。
【著書・関連図書】
できる人の実践ロジカルシンキング(日経BPムック)
営業マネジャーの教科書(総合法令出版)
ドラッカーが教える実践マーケティング戦略(総合法令出版)
ドラッカーが教える問題解決のエッセンス(総合法令出版)
頭のモヤモヤをスッキリさせる思考術(総合法令出版)
【関連URL】
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