今回は、イタリアをモデルにした地方創生について考えます。
前回のコラムでイタリアのモデルについて少し触れました。国が豊かになるのではなく地域や地方が何かで世界で一番になるという取り組みです。小さな地方であっても世界を代表する産業を持ち、その産業に集中して初めから世界を目指します。そして経済的に国から独立する発想を持つというものです。
イタリアをモデルとする地方創生を考える際、日本とイタリアの比較は重要です。規模、歴史や文化の活用、輸出比率、ブランドに対しての理解という4つの視点で比較してみます。

例えばイタリアの産地の経済規模は一つの地域だけで1,000億円規模を稼ぐまでになっています。日本では産業が盛んといっても数億円規模がせいぜいです。
貴金属製品のアレッツォ、梱包・包装機械のボローニャ、革・皮革製品のフィレンツェ、メガネ製造のベッルーノ、貴金属製品のヴィチェンツァ、木材・インテリアのブリアンツァ、靴生産のフェルモ等々、ジェトロの資料をみるとイタリアの産地ごとの輸出が好調でその数も突出していることが分かります。
日本にも多くの伝統工芸品があるものの、経済規模が100億円に届くものが殆どなく、地方創生という規模にまでは結び付きません。経済産業省が発表している伝統的工芸品指定品目一覧を見ても確かに100億を超える規模の産業が少ないと感じるでしょう。
例えば、青森の津軽塗、秋田の曲げわっぱ、岩手の南部鉄器、福島の会津塗、東京の江戸切子、石川の加賀友禅、岐阜の美濃焼、京都の西陣織、岡山の備前焼、香川の丸亀うちわ等々。明らかに先に挙げたイタリアの産地と比較して規模が小さいことが分かります。

次に歴史や文化の活用です。
日本では「地方創生」というキーワードで各地域が同じような箱物を作り、同じようなキャラクターをデザインして、同じようなイベントを行っています。また国道沿いにはナショナルブランドが溢れ、どこの地域に行っても特色がない街並みが溢れています。
一方、イタリアは独自性をもっています。年によって街並みや景色が全く異なります。元々都市国家としての特徴があったという背景もありますが、それでも絶やすことなく地域ごとの特色ある文化や歴史を上手く活用しています。

消費の方向性にも違いがあります。
日本は地域や国内を対象にしているので、輸出比率はほぼゼロか低いレベルです。
しかしイタリアの中小企業やファミリービジネスは初めから世界を相手に商売をしているので、輸出比率が高い傾向にあるのです。

そして最も特徴的なモノがブランド価値に対する理解です。
近年、ようやく日本でもブランドを大切にする動きが出てきていますが、まだまだ表面的に取り組んでいる地域が多いようです。どこかがPRビデオを作ってYouTubeにアップすると、それを追いかけるように全ての自治体が補助金を出してPR動画を作ります。基本的には特徴を活かしてブランド価値をあげる取組ではありません。
イタリアでは違います。
企業や消費者、そして地域に住んでいる人々のブランドやデザインに対しての価値に対する理解が高く。その評価も世界からきちんとした形、つまり価格で受けています。
イタリアの企業や産業は高値で売れるモノ、利幅を確保できるという特徴があります。
ところが日本の産業はいまだに安値で叩かれ、中国との競争になり、結果利幅を持てないので伝統文化や地方の産物に対して誇れる若者が減っています。イタリアがハイエンド層やアッパーミドルに絞って商品を提供しているのと比較して、日本はボリューム層にアプローチしているので、結果的にマス商品や普及ブランドと比較されるから、値段が高くつかないのです。

マーケティングの基本は、自分たちが創りだす価値に対して、その価値を理解できる層にアプローチする。そのためにターゲット層にあった商品、価格、流通、プロモーションを構築していきます。
イタリアの地域は初めから世界中のアッパー層やハイエンド層を狙ったためその整合性はあっていますが、日本はその方針がなく、ただ商品を作ることに集中するためブランドの価値が付かず、皆がバラバラのモノを作り、結果的に規模も小さくなってしまうのです。
これは非常にもったいないことです。

次回は、このような違いを、イタリアはどのような仕組みで構築しているのかについて見ていきたいと思います。

参考資料:2016年3月 向研会資料、2014年3月 イタリア産地の変容 日本貿易振興機構(ジェトロ)経済産業省「伝統的工芸品指定品目一覧」イタリアの地方分権の道程と産業クラスタの形成(小門裕幸)

profile

早嶋 聡史 氏
(はやしま・さとし)
株式会社ビズナビ&カンパニー 代表取締役社長
株式会社ビザイン 代表取締役パートナー
株式会社エクステンド 取締役
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事

長崎県立長崎北高等学校、九州大学情報工学部機械システム工学科、オーストラリアボンド大学経営学修士課程修了(MBA)。
横河電機株式会社の研究開発部門(R&D)にて産業用ネットワークの研究に従事。MBA取得後、海外マーケティング部にて同社主要製品の海外市場におけるブランド戦略・中期経営計画策定に参画。B2Bブランディングの先駆けとして後に知られるようになったVigilanceという力強いブランドキャンペーンを実施。退職後、株式会社ビズナビ&カンパニーを設立。戦略立案を軸に中小企業の意思決定支援業務を行う。また成長戦略や撤退戦略の手法として中小企業にもM&Aの手法が重要になることを見越し小規模のM&Aに特化した株式会社ビザインを設立。更に、M&Aの普及活動とM&Aアドバイザーの育成を目的に一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立。現在は、売上規模数十億前後の成長意欲のある経営者と対話と通じた独自のコンサルティング手法を展開。経営者の頭と心のモヤモヤをスッキリさせ方向性を明確にすることを主な生業とする。
【著書・関連図書】
できる人の実践ロジカルシンキング(日経BPムック)
営業マネジャーの教科書(総合法令出版)
ドラッカーが教える実践マーケティング戦略(総合法令出版)
ドラッカーが教える問題解決のエッセンス(総合法令出版)
頭のモヤモヤをスッキリさせる思考術(総合法令出版)
【関連URL】
■戦略立案のビズ・ナビ&カンパニー
http://www.biznavi.co.jp

■中小企業のM&Aビザイン
http://www.bizign.jp

■日本M&Aアドバイザー協会
http://www.jma-a.org

■事業再生と廃業支援のエクステンド
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