二人とも両親に大学教授や研究者を持ち、幼少期からコンピュータに触れて育った。
そんな二人、ラリー・ペイジとセイゲル・ブリンがスタンフォード大学の修士課程で共同研究をしていた。インターネット上のページをリンク数などをもとに評価する「ページランク」という理論だ。そして、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」を経営理念にした『Google』という会社を1998年に設立した。この「世界中の情報」とは、インターネット上のデータだけでなく、本や論文や古文書や地理情報や飛行機のフライト情報やメールなど、とにかく総ての情報を指している。

一方、1994年というインターネットの黎明期に、同じスタンフォード大学の相撲好きな大学生二人がいち早く興した『Yahoo!』は、1998年には世界が最も注目するIT企業に成長していた。ニューヨークを走るイエローキャブや、野球やバスケットボールのスタジアムにはYahoo!のロゴが踊っていた。そして、多くのパソコンはブラウザを開くとYahoo!が起動するように設定されていた。

情報がはちきれるほど詰め込まれたYahoo!のサイトは、ビッグバンのように急拡大するインターネットの活気に溢れていた。
逆にGoogleはといえば、真っ白なページの真ん中にGoogleのロゴと検索のための横長の四角い線が表示されているだけだった。派手なTVCMや広告戦略も一切なく、真っ白な検索ページだけで打って出たのだ。このGoogleの知的なデビューにゾクゾクするほどの魅力と期待を感じたのは、私だけではないと思う。

Googleの検索結果は素晴らしかった。
探したいものが素速く見つかる。その秘密は、前述の「ページランク」の技術だった。ユーザーが見たいサイトや注目されているページには、多くのサイトがリンクを張っているのだが、その量とリンク先のサイトの質をクローラーというインターネット空間を巡回するボットが見分けてそのサイトの評価をしているのだ。その結果は自動的にランキングされて、評価の高い順に検索結果が表示されるわけだ。一方Yahoo!では、人がサイトの評価をして階層化したり分類した内容を検索結果として表示させていたのだ。これでは、客観性や即時性は期待できない。

Googleの素晴らしさは、先々まで見越したビジョンと高い技術力。その技術がもたらす価値にエンジニアのプライドを持って世界にアピールし続けているところだ。Googleのビジョンは時に現実離れしすぎるほど突出していて、『Google Glass』のように派手な失敗も多い。しかし、Googleは投資家や未来を夢見る少年たちにも魅力的な企業だろう。結局、Yahoo!は一時期自らの検索エンジンにGoogleの機能を採用することになり、終いには検索ビジネス市場でGoogleに敗退し、モバイル分野で出遅れて雲散霧消してしまった。
(創業期のYahoo!に投資したことで展開した「日本のYahoo!」は、今は全く別法人として健在だ)

さて、現在のGoogleはというと、研究者やエンジニアの楽園を創出し世界中から優秀な人材を集めた。そして、検索結果に広告主のリンクを表示させるAdWordsや、YouTubeで表示されるあの煩わしいCMの収益などをどんどん新たなサービスやソリューションの開発に注ぎ込んでいる。

Google マップ、YouTube、Google Home、Google 翻訳、Google ドライブ、Google Earth、Google フォト、Google カレンダー、Gmail、Google ブックス、Google Music、Google Analyticsなど、そのサービスの種類は実験的なものなども含めると枚挙に暇がない。しかし、見逃せない動きがある。それは、グーグルの「AIファースト」戦略だ。

Googleが近年推し進めてきた「Mobileファースト」の次のミッションがこの「AIファースト」なのだ。

これまでバラバラに進化してきたようにも見受けられるすべてのサービスにAIが活用され、多くの事例とともに自動学習が進み、音声認識力や、画像分析力も飛躍的に向上している。例えば検索する人の趣味や習慣や時間帯などに合わせて表示順位を替えたり、時間や天気や各種センサーや位置情報から、検索しなくても必要そうな情報を提供してくれたり、メールの重要度をAIが判断して緊急なものはレコメンドしてくれたりと、AIが関わることで、どんなサービスも飛躍的に便利なものに進化できるのだ。遂には、「Ok Google」と訊くまでもなくなるのだろう。

創業当時、「検索結果に広告を出したくはなかった」というラリー・ペイジとセイゲル・ブリンの本当に求めていたビジネスモデルをAIが叶えてくれる日も近いかもしれない。

■毎月更新されるこの連載では、今後時代がどう変化するのか、最先端の動向や技術を基盤に深く読み解ければと思う。

profile

佐藤豊彦(さとう とよひこ)
大分県大分市出身。東京を拠点に企業やNPOなどのコンサルタントとして、マーケティングやブランディングやメディア戦略の提案などを手掛けている。
また、オーナーとしてプロバスケットチーム・大分ヒートデビルズ(現・愛媛オレンジバイキングス)の立ち上げに関わったり、大分県立総合文化センター(現・iichiko総合文化センター)の企画制作などを担当するなど大分の仕事も多い。
イラストレーターとしてもSatoRichmanのペンネームで活動し、田中康夫氏や林真理子氏など多くのエッセイや小説などに作品を提供したほか、popeye他多くの雑誌や、UNICEF世界版カード、丸ビルのビジュアル、MasterCardのPricelessキャンペーン、氷結果汁やNEXCO東日本のTVCM、伊勢丹のディスプレイ、高島屋のカードキャンペーン、三越の広告などで活躍。また、クリエイティブディレクターとしてnikeやMAZDAやFORDや小学館などのWEBサイトのマーケティング戦略の提案、コンテンツの提案、全体のディレクションやコンテンツの制作やデザインを担当。
TBSからスタートしたポッドキャスト番組AppleCLIP(インターネットを使ったラジオ放送)の制作ディレクター兼パーソナリティを担当している。