[第39回 K字経済

【問い】
「K字経済」とは、どんな概念でしょうか。コロナ後の世界を予測することは難しいでしょうが、経営者として抑えるべきポイントは何でしょう?

【方向性】
経済が2極化し、富めるモノと貧するモノに分かれる経済現象。企業は、従来の成功パターンに加えて、新たな業態の模索が大切です。その際、直近に起きた現象を直視し、検証したうえで方向性を見出すことをお勧めします。

【解説】
K字経済とは
経済の二極化を象徴する意味として「K字経済」という言葉が使われます。その領域は広く、国家や地域間の経済格差から企業間、個人の消費に対してまで言及されます。

個人間で見た場合、所得階層別の収入や貯蓄の増減をグラフで可視化すると、富裕層と貧困層では真逆の動きを示します。富裕層は増加、貧困層は減少と上下に開き、可視化されたグラフはK字を描くことからK字と名付けられました。
その特徴はコロナ禍の前から観察されていましたが、今後も影響が長期化されることから低賃金労働者ほど雇用環境が悪化し、株高など資本経済の影響を受けやすい富裕層に富が集中する現象が加速されるのです。そしてこの現象は個人から企業、そして地域や国と、まさに世界的な広がりを見せています。

■世界の株式時価総額とせかいけいざいの見通し
2020年、世界の株式時価総額は前年比で2割増の101兆ドルです。
この数字は昨対比で3%減少となった世界の名目GDP(国内総生産)84.5兆ドルを上回ります。直近の世界の名目GDPは85兆ドルから90兆ドル、世界の株式時価総額の成長とその乖離が分かります。

コロナからの回復は先進国と新興国で明暗が別れます。
国際通貨基金(IMF)は4月のG7(主要7カ国)の成長率が2021年に5%を超え、2020年のマイナス5%からV字回復する見通しを示しています。対して中南米は2020年にマイナス7%、2021年は4%成長です。IMFは世界約60カ国におけるコロナ前の名目GDP水準の回復を2023年以降と予測し、2021年から2022年に回復を見込むとする欧米と日本と比較して新興国の遅れが顕著です。

■米国経済と日本経済
米国景気が予想を上回る速度で回復しています。各種報道によれば2021年1月から3月期の実質国内総生産は対前年比で6.4%増え、成長率は前期の4.3%から増加予測です。

米国の消費は高級品を中心に伸び、金融資産を多く持つ富裕層は株高の恩恵と旅行等への消費が出来ない背景から消費意欲を高めているのです。
一方で、3月時点の米国で家賃滞納は約1,000万世帯あり、統計では借り手の2割に相当します。年収ごとの比較では年収2万5千ドル以下の低所得層の延納率は27%、年収7万5千ドル以上では9%と3倍の開きが確認できます。

一方、日本経済においては、業界毎の明暗も顕著です。
製造業と非製造業で2019年4〜6月期と2020年4〜6月期を比較すると、製造業では非鉄金属、ゴム製品、石油・石炭、鉄鋼、輸送用機器の業界は損出が顕著です。また非製造業では陸運業、空運業、鉱業、海運業の損失が目立ちます。同期間で上場企業の営業損益額の変化を見ると「移動の制限」を受ける輸送機器や陸運業の減益額が突出しています。

■日本の住宅環境の動き
一方、住宅価格でもK字経済が進んでいます。都心部は高所得者層の購買意欲が高く値上がりする一方、近郊での減速が顕著です。中低所得者層は住宅購入を控え、持ち家売却も加速しています。
国土交通省が公表する不動産個別取引データによれば、港区や千代田区では2020年4月〜9月の住宅1坪あたりの取引価格が10%上昇し、直近5年前の2倍に跳ね上がっています。私が住む福岡市中央区でも同様の現象を確認できます。不動産価格は中古マンションでも5年前と比較して30%以上も上昇しているのです。

ところが、全国平均を見ると様子が異なります。
住宅取引価格は前年同期非で約6%下落、取引件数では14%減少とコロナの影響で二極化していることが分かります。総務省の家計調査から持ち家比率を見ると、年収200〜250万円の世帯は60%で2019年と比較すると7%低下。さらに年収200万円未満では53%と昨年比で16%も低下しています。
家計が苦しくて家を手放す層が、低所得層で増加しているのです。

■業界毎の動向
移動や旅行を伴う観光関連業界を外し、2019年4月から6月期と2020年の同期間における経営情報の推移を比較して業界毎のトレンドを推察してみましょう。

【総合電機業界】
車載向け機器事業が低迷。ゲーム、音楽、データセンタ向け半導体事業は好調。コロナ後の住宅や生活ニーズへの対応変化が業界の明暗を分けるでしょう。

【電子部品業界】
自動車や車載部品、オフィスや工場関連部品で苦戦。データセンタやスマフォ、PC関連は好調。自動車依存の企業は今後のポートフォリオを検討する必要性があります。

【自動車業界】
全社が減収となるなか、黒字を確保した企業もあり、明暗が分かれます。今後、世界最大の自動車市場である中国で勝てるか、EVシフトに対応できるかが問われます。

【ネットサービス関連】
巣ごもり対応やEC、コンテンツ事業は好調。従来型のマス広告や飲食事業向けのネットメディアは苦戦。

【住宅関連】
新業態に移行する消費者の暮らしニーズをとらえた企業は業績を進捗。在宅ワークの普及を前提として郊外型、部屋数の増加など住宅のニーズに変化が出ています。

【サービス業】
休業や営業自粛の影響が多いにも関わらず、法人向けサービスは堅調。消費者向けサービスが下落。社会が新常態に移行することを前提に在宅勤務を支援する企業やDXを加速させる企業は今後も成長するでしょう。

【商社】
全社が減収。しかし資源依存から脱している企業は業績に期待が持てます。ここ数年は景気動向の影響を受けやすい事業から生活消費に密着する事業シフトが総合商社のトレンドになると思います。

【ホームセンター】
郊外型は前年比で2桁成長を達成する一方、都市型店舗は大幅な減収。立地条件の見直し、EC対応、プライベートブランドを導入して収益性を高めるなどが必須になります。

【スーパー】
生活密着型食品スーパーは順調。都心中心やコンビニや総合GMSは業績を下落。生活密着とコロナ生活スタイルに合った品ぞろえと業態シフトがポイントになるでしょう。

【外食業界】は全般的に難。外出規制や営業自粛を受ける立地、3密業態は低迷。店外での飲食サービスの提供は順調。今後は立地の選定、店外での飲食サービス、感染予防対対策を行いやすい業態を目指す企業が増えるでしょう。

■今後の方針
キーワードは、ヘッジとシフトです。
ひとつの業態を深堀りすることがリスク要因になりました。既存事業の深堀りから、周辺事業や新規業態へのシフトや模索も大切になってきます。
あらゆる業界や市場にはライフサイクルがあり、成長する市場はやがて成熟し、別のイノベーションの登場により衰退します。コロナは特にDXを加速させ、旧態依然としたルールを一掃する力を持っています。従来の業態を誇示する企業の永続はありません。新たな事業機会を模索して、できれば小さくテストしておくことが大切です。従来のルーティンを行うことで、収益を上げるのではなく、自社の強みを再認識したうえで業態が変わっても収益が発生する仕組みを研究するのです。
当然、経営者の覚悟と、従来の延長ではない組織の開発と人材教育がカギになってくると思われます。

profile

早嶋 聡史 氏
(はやしま・さとし)
株式会社ビズナビ&カンパニー 代表取締役社長
株式会社ビザイン 代表取締役パートナー
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事
Parris daCosta Hayashima k.k. Director & Co-founder

長崎県立長崎北高等学校、九州大学情報工学部機械システム工学科、オーストラリアボンド大学経営学修士課程修了(MBA)。
横河電機株式会社の研究開発部門(R&D)にて産業用ネットワークの研究に従事。MBA取得後、海外マーケティング部にて同社主要製品の海外市場におけるブランド戦略・中期経営計画策定に参画。B2Bブランディングの先駆けとして後に知られるようになったVigilanceという力強いブランドキャンペーンを実施。退職後、株式会社ビズナビ&カンパニーを設立。戦略立案を軸に中小企業の意思決定支援業務を行う。また成長戦略や撤退戦略の手法として中小企業にもM&Aの手法が重要になることを見越し小規模のM&Aに特化した株式会社ビザインを設立。更に、M&Aの普及活動とM&Aアドバイザーの育成を目的に一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立。近年、アナログの世界に傾倒すること、価値を見直すことをテーマに、自ら高級スイス時計のブランドであるパリス・ダコスタ・ハヤシマを設立する現在は、売上規模数十億前後の成長意欲のある経営者と対話と通じた独自のコンサルティング手法を展開。経営者の頭と心のモヤモヤをスッキリさせ方向性を明確にすることを主な生業とする。
【著書・関連図書】
できる人の実践ロジカルシンキング(日経BPムック)
営業マネジャーの教科書(総合法令出版)
ドラッカーが教える実践マーケティング戦略(総合法令出版)
ドラッカーが教える問題解決のエッセンス(総合法令出版)
頭のモヤモヤをスッキリさせる思考術(総合法令出版)
実践『ジョブ理論』(総合法令出版)
この1冊でわかる! M&A実務のプロセスとポイント(中央経済社)
【関連URL】
■YouTube「早嶋聡史のチャンネル」
https://www.youtube.com/user/satoshihayashima/videos
■早嶋聡史の戦略立案コンサルティング
http://www.biznavi.co.jp/consulting/strategy_planning

■早嶋聡史の事業実践塾
http://www.biznavi.co.jp/businessschool

■中小企業のM&Aビザイン
http://www.bizign.jp
■月々1万円で学ぶ未来社長塾
http://www.mirai-boss.com/
■独・英・日の時計好きが高じて立ち上げたスイス時計ブランド
https://www.parris-dacosta-hayashima.com/