iPhoneが発売されて、世界中の人々が恩恵に預かっているものの一つのが「Google マップ」だろう。

2007年1月9日に、スティーブ・ジョブズ氏がステージで「タッチコントロール付きワイドスクリーンのiPod、革新的な携帯電話、画期的なインターネット・コミュニケーション・デバイス。この3つが1つになった。電話の再発明だ」と初代iPhoneを発表した。ここからコンピューターはスマートフォンという形で世界中の人々のポケットに入り、社会のデジタル化を急激に推進するきっかけになったのだ。

この時代を変えた伝説のプレゼンテーションで、スティーブ・ジョブズ氏は、スクリーンにワシントンのモニュメントを表示させて、次にエッフェル塔を見せ、ローマのコロシアムを表示した。Google マップのプレゼンテーションだった。そして、「こんなことができるんだよ。電話でだよ」と驚いたようにつぶやいた。その様子を見ていたエンジニアやジャーナリストたちは、歓声を挙げずにはいられなかった。

実はこの初代iPhoneに、あの頑固なスティーブ・ジョブス氏を説き伏せてGoogle マップを搭載させたのがジョン・ハンケ氏だった。当時、Appleの社外取締役をGoogleのCEOエリック・シュミット氏が務めていたこともあり、スティーブ・ジョブス氏へのプレゼンテーションの機会を得たのだ。

ジョン・ハンケ氏は13歳からゲームを作っていたという天才プログラマーだった。未婚の母の元に生まれ、幼少時に同州クロス・プレインズの農家へ養子として引き取られ、家業を手伝いながら育った。アーサー・C・クラークやウィリアム・ギブスンなどのSF小説を愛読し、中学生でプログラミングを始め、高校に入学してからはシューティングゲームやアドベンチャーゲームなどの様々なゲームやSNSなどを開発した。大学卒業後、米国務省に入省してワシントンDCやミャンマーなどで4年あまり働いて退職し、カリフォルニア大学のビジネススクールに入学。そこで同級生らと立ち上げたゲーム会社などのバイアウトを幾度か繰り返しながら、ベンチャー企業Keyholeを設立し、その共同創業者兼CEOとなった。

Keyholeでは、衛星写真に道路地図情報や建物や企業情報などのさまざまな情報を組み合わせた巨大なデータベースを組み立てた。さらにこのデータベースを閲覧するためのソフトウェアを開発し、地球を雲の上から眺めているような画像を表示するソフトウェアを提供した。これによって宇宙から一気にズームインして目的地までのルートや周辺の様子を確かめるなどの新たな地図情報の活用法を生み出し、そしてその価値を一変させたのだ。

しかしこのKeyholeは、ソフトウエアの販売を開始するころには資金が尽きてスタッフ全員の給料を引き下げるほどの厳しい経済状況を迎えていた。システム開発やサーバーの費用などに巨大な投資が必要だったのだ。

そのためジョン・ハンケ氏はGoogleの役員を集め、参加者全員の自宅を次々に映し出すという奇抜なプレゼンテーションで、Googleに無事吸収された。その後ジョン・ハンケ氏は、KeyholeのチームとともにGoogle EarthやGoogleマップ、ストリートビューなどを制作したのだ。

そしてそれらのアプリケーションを開発したGoogle Geoチームを統括する副社長を歴任した後に、こっそりと社内にゲームを作るチームを集めた。ゴールドラッシュ時にニューイングランドからサンフランシスコまで工夫たちを運んだ捕鯨船の名前から命名したナイアンティック・ラボだ。この話は、Appleの社内に海賊旗を掲げてMacintoshコンピューターを開発したスティーブ・ジョブス氏の逸話を彷彿とさせる。

ジョン・ハンケ氏は、子どもたちがビデオゲームに夢中になり良い天気なのに部屋にこもっていることを危惧して、「外に出るモチベーションが上がるものを作ろう」と思ったのだという。そして出来たのが、青組と緑組に分かれて地上の仮想領域を取り合う『Ingress』というゲームだった。

2015年には、Googleからも支援を受けて独立し現在の社名Niantic, Inc.となった。同年にはGoogle他、任天堂、ポケモンから3,000万ドル(約320億円)を調達し、2016年2月にフジテレビなどから500万ドル(約5億3千万円)の追加資金を調達している。

『Ingress』の成功をバックボーンに出来たゲームが、社会現象にもなった『ポケモン GO』だった。そしてNiantic, Inc.が、ワーナーと共同開発したゲーム『ハリー・ポッター: 魔法同盟』が公開された。

ジョン・ハンケ氏は、「私たちは、ゲームを通じて彼らの背中を押し、日常生活の楽しさや面白さに気づいてもらいたい」と語っている。Niantic, Inc.は、既に世界的なゲーム企業へと成長を遂げているのだが、Appleの役員会が追放したスティーブ・ジョブズ氏率いる瀕死のNEXT社が、ついにはAppleに返り咲きAppleを凋落から救ったように、とんでもなく大きな成長を遂げる気がしてならない。

■毎月更新されるこの連載では、今後時代がどう変化するのか、最先端の動向や技術を基盤に深く読み解ければと思う。

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佐藤豊彦(さとう とよひこ)
東京を拠点に企業やNPOなどのコンサルタントとして、マーケティングやブランディングやメディア戦略の提案などを手掛けている。オーナーとしてプロバスケットチーム・大分ヒートデビルズ(現・愛媛オレンジバイキングス)の立ち上げに関わったり、大分県立総合文化センター(現・iichiko総合文化センター)の企画制作などを担当するなど大分の仕事も多い。
イラストレーターとしてもSatoRichmanのペンネームで活動し、田中康夫氏や林真理子氏など多くのエッセイや小説などに作品を提供したほか、popeye他多くの雑誌や、UNICEF世界版カード、丸ビルのビジュアル、MasterCardのPricelessキャンペーン、氷結果汁やNEXCO東日本のTVCM、伊勢丹のディスプレイ、高島屋のカードキャンペーン、三越の広告などで活躍。また、クリエイティブディレクターとしてnikeやMAZDAやFORDや小学館などのWEBサイトのマーケティング戦略の提案、コンテンツの提案、全体のディレクションやコンテンツの制作やデザインを担当。
TBSからスタートしたポッドキャスト番組AppleCLIP(インターネットを使ったラジオ放送)の制作ディレクター兼パーソナリティを担当している。