[第62回 ノンカスタマー]

【問い】
売上は「総購入回数」×「平均単価」
で表現できます。平均単価を上げることは大変なので企業は「総購入回数」に着目して売上拡大を狙うのですが、結果がついて来ません。なぜでしょうか?

【方向性】
総購入回数を増やすため、「総顧客数」×「リピート回数」に注目しましょう。
ほとんどの施策は、既存顧客のリピート回数を増やす取り組みに注力しています。ここが成果が出ないポイントなのです。
結論から言うと、総顧客数そのものの母数を増やすため、未顧客の開拓をはじめることが重要な方向性となるのです。

【解説】
■「未顧客」とは
人口減少、経済低迷、追い打ちコロナ…。企業の多くは成長戦略を掲げていますが、明確な一歩が踏み出せていません。しかし、何か考えなければ始まらないと「新規顧客の獲得」「市場の拡大」「新規事業の創造」と、これまで経験していないエリアに“青い鳥”の姿を見出して妄想の日々を過ごしています。

しかし冷静に考えると、企業が対象とする全ての商品は、ターゲットカスタマーよりも「購買しないノンユーザー層」「購買しても年に1回、2回程度のライトユーザー層」が大部分を占めています。つまり企業が普段から意識的に捉える市場は全体のごく一部であり、その集合体を「既存顧客」と捉えているのです。
このようなノンユーザー層とライトユーザー層に、ターゲット層にフィットしないマイノリティ顧客を合わせて「未顧客」と定義します。

データ分析の落とし穴
近年、データ分析業務はマーケターの役割から一般社員の作業にシフトされるほど、当たり前に浸透してきました。
しかし大部分のデータは既存顧客のデータであり、未顧客のデータは存在しません。特にデジタル化を加速している企業では、既存顧客が購買に関与するタイミングや導線でデータを収集しています。そのため購買頻度が高い優良な顧客データばかりが蓄積され、商品に興味関心が無い、あるいは薄い未顧客のデータは集まりにくい状況にあります。

同様の現象は、実店舗や営業等にも当てはまります。
フロントに立って顧客と接する従業員は、既存顧客を理解していると考えられます。来店しない、あるいは普段接することがない未顧客のことになると当然知ることはありません。そして、この層に対しての重要性を認識しません。見えないものは考えることができないのです。「未顧客」は、存在を理解し、将来の成長の鍵になる重要なセグメントなのですが、見えない、知らない顧客を初めから彼らは対象にしていないのです。
「未顧客」に対するアプローチはジレンマの塊です。分析しようと思ってもデータが無く、どのようにデータを集めればいいのか、初めの切り口は何なのかがサッパリわからないのです。

■注目に値する理由
あらためて売上を概念化すると、上述のように次のような方程式が出てきます。

売上 = 総購入回数 ✕ 平均単価

売上を増やすためには「総購入数を増やす」「平均単価を高める」の2つの方向性が重要です。通常、平均単価を高くしても全体の売上は伸びません。そのため、総購入回数を増やすことが重要なアプローチになるのです。

このアプローチは「既存顧客」と「新規顧客」のアプローチに分けられます。この議論は昔から「新規顧客の獲得コストは既存顧客の維持コストの5倍程度かかる」など、「既存顧客」にフォーカスする定説が存在しますが、案外と立証されていません。
そのため新規か既存かの議論は、繰り返し企業の中でも試行錯誤が続いています。

総購入回数 = 総顧客数 ✕ リピート回数

一方、企業成長の因果関係が強い因数に、総顧客数の増加と言うことは多方面で確認されています。ここからわかることは、マーケティングは依然として一部の業界を除けば数のゲームであり、企業の売上増加の鍵は「総顧客数」の増加になるということです。

しかし、実際の現場の行動を観察すると、「総購入回数」を上げるためには「総顧客数」にフォーカスするよりも「リピート回数」を増やす取り組みが注目されています。
これは「既存顧客の維持獲得コストが安い」という錯覚からくるものだと思われます。そのため、既存顧客に「さらに買っていただく」という方針をとってしまうのです。

そもそもヘビーユーザの割合は全体の顧客と比較して少なく、購買促進にも限度があります。また既存顧客への施策は効き目が短く、持続しません。「投資対効果」を議論する動きもあるが、そもそも効率の話であり、絶対量の総顧客数が増加する策ではないのです。

繰り返しますが、総顧客数増加の鍵はノンユーザーやライトユーザを含めた未顧客を増やすことです。これによってヘビーユーザーの数も総顧客数の増加に比例して獲得できます。一般的にノンユーザーやライトユーザーは極端に多く、何回も購買するヘビーユーザーは極端に少ないものです。年に1、2回しか買わないライトユーザの母数そのものを増やすことが、全体の成長加速を意味することにつながるのです。
つまり購買回数が0回の未顧客に1回でも購買いただける活動に注力すること、未顧客の母数を増やすことがとても重要な戦略になるのです。

■文脈を捉えた再解釈の活用
ノンユーザーやライトユーザを獲得するポイントは、未顧客の文脈(特定の状況)に注目し、商品の意味を再解釈させることです。この行動を繰り返すことで、総顧客数の母数を増やすことができます。

保育園の園児嫌いの事例を紹介しましょう。
保育園では風呂嫌いの子供に対して、風呂の解釈を「嫌な場所」という認識から「遊び場のひとつ」と解釈させることで、風呂に対する「イヤイヤ」を「行きたい!」に変化させるといいます。
自社商品やブランドを「風呂」、未顧客を「風呂嫌いの園児」、保育士を「マーケター」に例えると、マーケターである保育士は未顧客の商品理解を再解釈させたことで、風呂に向かわせる取り組みに成功したことになります。
その結果、園児は「遊びたい欲求」に基づき「風呂に行く行動」を起こし、結果として「楽しい水遊びという報酬」を得るのです。

これら文脈は、店舗やブランドマーケティングの再構築に結びつけることが可能です。
歯科医院であれば「治療する場所」「痛くて怖い場所」を「健康になる場所」「快適な生活をサポートする空間」と再認識させると、来院数が増える可能性があります。
コンビニスイーツも「ダイエットを妨げる」ものではなく、毎日の仕事に疲れたあなたへの「帰ってからのご褒美」と発信することで、新たな顧客層を開発したといわれています。

ノンユーザーやライトユーザを獲得するポイントは、特定の状況における未顧客の文脈に注目し、商品の側面を再解釈させることが、成功の鍵を握っているのです。

profile

早嶋 聡史 氏
(はやしま・さとし)
株式会社ビズナビ&カンパニー 代表取締役社長
株式会社ビザイン 代表取締役パートナー
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事
Parris daCosta Hayashima k.k. Director & Co-founder



長崎県立長崎北高等学校、九州大学情報工学部機械システム工学科、オーストラリアボンド大学経営学修士課程修了(MBA)。
横河電機株式会社においてR&D(研究開発部門)、海外マーケティングを経験後、株式会社ビズ・ナビ&カンパニーを設立。戦略立案を軸に事業会社の意思決定支援を行う。成長戦略や出口戦略の手法として中小企業にもM&Aが重要になることを見越し、小規模M&Aに特化した株式会社ビザインを設立、パートナーに就任。M&Aの普及とアドバイザーの育成を目的に、一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立し、理事に就任。その他、時計ブランド「Parris daCosta Hayashima」の共同創設者でもある。また、陶芸アニメ「やくならマグカップも」のスピンオフアニメ「ロクローの大ぼうけん」の製作配信事業の取締役を行う。現在は、成長意欲のある経営者と対話を通じた独自のコンサルティング手法を展開し、事業会社の新規事業の開発と実現を資本政策を活用して支援する。経営者の頭と心のモヤモヤをスッキリさせることを主な生業とする。

【著書・関連図書】
できる人の実践ロジカルシンキング(日経BPムック)
営業マネジャーの教科書(総合法令出版)
ドラッカーが教える実践マーケティング戦略(総合法令出版)
ドラッカーが教える問題解決のセオリー(総合法令出版)
頭のモヤモヤをスッキリさせる思考術(総合法令出版)
実践『ジョブ理論』(総合法令出版)
この1冊でわかる! M&A実務のプロセスとポイント(中央経済社)
大事なことはシンプルに考える コンサルの思考技術」(総合法令出版)

【関連URL】
■YouTube「早嶋聡史のチャンネル」
https://www.youtube.com/user/satoshihayashima/videos
■早嶋聡史の戦略立案コンサルティング
http://www.biznavi.co.jp/consulting/strategy_planning

■早嶋聡史の事業実践塾
http://www.biznavi.co.jp/businessschool

■中小企業のM&Aビザイン
http://www.bizign.jp
■月々1万円で学ぶ未来社長塾
http://www.mirai-boss.com/
■独・英・日の時計好きが高じて立ち上げたスイス時計ブランド
https://www.parris-dacosta-hayashima.com/