環境イメージ 再生可能エネルギー サステナ

※「第37回グリーンエネルギー・前編」からの続き
[第38回 グリーンエネルギー・後編]

【問い】
脱炭素社会におけるエネルギーの動向はどうなっていますか?
また、その中で日本はどのような役割があり、どのように解決していくのでしょうか?

【方向性】
前回はカーボンニュートラルの動向を把握するために、世界のエネルギー潮流を見た後、主要国のカーボンニュートラル政策を確認しました。その後、カーボンニュートラルに向けた日本の取組と技術動向をみていきました。今回は、これまでの議論をベースに日本のエネルギー政策の問題点について深堀し、理想の姿について考察します。

【解説】
■アンモニアの活用
アンモニアは燃焼してもCO2を排出しないため、水素キャリアとしての活用に加えて、そのまま発電に活用する動きもあります。
アンモニアは常温常圧では無色透明の気体で、特有の刺激臭がある毒性の強い劇物です。従来は肥料の原料に主として利用されてきました。これを燃料に活用するメリットは、生産や輸送技術が既に確立されていて、発電所を含めて既存インフラを活用できることです。水素キャリアとして活用するくらいですから取り扱いが容易で、全体の発電コストは安くなり、現時点で水素での発電コストの25%程度です。
デメリットは、窒素を含むため、燃焼すると窒素酸化物(NOx)を排出することです。このうち一酸化二窒素は温室効果係数がCO2の約300倍もあり、猛烈な温室効果ガスです。そのためアンモニアを20%程度火力発電で混合燃焼させ、石炭発電と同程度まで排気中のNOxを抑える技術が開発されています。また触媒利用により、排出するNOxを抑制して火力発電所の構造を改善することで、NOxを低減する技術などにも注目が集まっています。

CO2回収の技術
カーボンニュートラルでは、CO2を分離して回収し様々な製品や燃料に再利用する方法も注目されます。この手法はCCUSと呼ばれ(Carbon dioxide Capture, Utilization or Storage :二酸化炭素の回収と有効利用・貯留の意味)、火力発電所や工場などからの排出ガスに含まれるCO2を分離回収します。回収したCO2は資源として作物生産や化学製品の製造に有効活用する他、地下の安定した地層の中に貯留するなどが検討されています。
回収したCO2を利用する場合は、溶接やドライアイスに活用する直接利用があります。また増進回収といい、油田にCO2を注入し、その圧力で石油の生産量を向上させる方法もあります。カーボンリサイクルの場合は、化学品への活用、メタンやバイオ燃料等への活用、コンクリート製品への活用等、複数の取組が試行されています。

■太陽光発電
従来の太陽光発電モジュールは今や中国のお家芸です。
しかし日本は次世代の太陽電池であるペロブスカイトに期待を寄せています。この技術はペロブスカイトという結晶構造の材料を用いた太陽電池で、従来のシリコン系や化合物系に匹敵する高い交換効率を達成します。何よりペロブスカイト膜は塗布技術で容易に作製できるため既存の太陽電池よりも低価格で施工可能です。今後はフレキシブルで軽量な太陽電池が実現できることでしょう。

■石炭火力とバイオマス発電
バイオマスとは生物資源の量を表す概念でした。しかし現在は、再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものを示す場合が多いです。従来の火力発電の燃料である石炭の代わりにバイオマスを活用できれば、既存の発電プロセスを活用する発電が可能になります。
火力発電はカーボンニュートラルに対してネガティブな眼差しで見られ、いずれ閉鎖に追い込まれる可能性があります。しかし発電所には送電線、蒸気タービンなどの設備が残っています。そのような石炭火力発電所を安く買い取り、バイオマス発電としてクリーンエネルギーの基地に置き換える可能性があるのです。
実際、イーレックスは太平洋セメントの発電所を2013年に買収し、改造して発電を行っています。燃料には品種改良したソルガムという植物を利用しています。育成が早く年3回収穫可能で従来活用していた他のバイオマスよりも栽培コストが3割程度安価です。
さらに中部電力や日本製紙などは、静岡県富士市の発電所を22年4月にバイオマス対応する計画です。

■日本のエネルギーの問題点
2018年時点で日本が排出するCO2は12.4億トンです。その中でエネルギー起源のCO2は10.6億トンあり、電力起源のCO2が4.5億トンです。現在、炭素除去している分量は分かりませんが、それを加味しても10億トン単位で排出削減する必要があります。
2019年度の電源構成を見ると18%が再生エネルギー、6%が原子力、76%が火力発電(石炭、LNG、石油等)です。ここから30年を目標に掲げ、再生エネルギーを30%後半、原子力を20%程度、水素アンモニアを1%以上、火力を40%程度の目標に掲げています。

現在、自動車業界は、各国に連呼されてきた「EV化」を進める流れになっています。
仮に全ての自動車がEV化した場合でも、リチウム電池の生産やリサイクルには多くの電力が必要です。トヨタは「夏の電力使用のピーク時に乗用車400万台が全てEVだった場合は電力不足になり、解消には発電能力を10%から15%増やさなければならない」という試算を示しています。日本においては、自動車を全てEV化するのではなく「併用」する考えがあっても良いのです。

日本における根本的な問題として、東西の周波数が異なることがあります。
東と西で電力を融通するためには、一度交流を直流に変えて周波数を変換する必要があります。もし九州で電力不足が発生し、北海道から電気を融通することができれば約15%の節電が今より可能になる試算もあるのです。

地学的な視点では、日本は地熱資源の保有国です。
しかし、地熱活用の電源構成は3%程度です。地熱の利用は、温泉事業者の反対、地熱資源があるエリアは自然公園などに指定され、環境省が音頭を取らない等が進まない理由です。一方で地熱発電技術は、日本は輸出国に相当します。従って十分に検討の余地がある分野ではあるのです。

現在、国内の原子力発電はどれも40年選手で、技術的には古い部類に入る発電施設ばかりです。対して近年、他国が導入する原子力発電は小型の高効率発電です。今後、原子力の発電割合を2割程度にすることは決定していますが、原子力全体の合理的かつ実質的な方針が不明瞭なままになっています。
このまま老朽化した原子力を高いコストをかけてまで活用するか、新たな投資をするか…。この議論が曖昧なまま、電源構成が一人歩きしているのではないかと思います。

■日本の方向性
日本の再生可能エネルギーや最先端技術には、十分な可能性があります。一方で、エネルギー使用量そのものを減らす動きの議論が、あまりなされていません。2050年の「カーボンニュートラル」に向けて世界と足並みを揃えることに加え、日本独自の工業技術を駆使した取り組みがあっても良いと思います。

具体的にはエネルギー消費量がもっとも多いとされるモーターとコンプレッサーの効率を2倍にするのです。また、住宅やオフィスビル、商業ビルや役所などの照明はすべてLEDに変換することも考えられます。このほか建物の断熱性を高める取り組みを行うことでも、電力消費そのものを減らすことが可能です。

カーボンニュートラルによりCO2排出量削減を46%にする目標は、現実的に厳しい部分が多々あります。そこで、日本のお家芸でもある節電に注視してはいかがでしょう。国内の節電技術は海外に対しての輸出商品にもなりますので、他国も注目することでしょう。

節電とカーボンニュートラル、この2つを同時に目標に掲げて2030年、そして2050年に動き出すことが合理的な戦略だと思います。

参考文献:日本経済新聞日経ビジネス週刊ダイヤモンド 、20217月「向研会」資料他

profile

hayashima_biznavi
早嶋 聡史 氏
(はやしま・さとし)
株式会社ビズナビ&カンパニー 代表取締役社長
株式会社ビザイン 代表取締役パートナー
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事
Parris daCosta Hayashima k.k. Director & Co-founder

長崎県立長崎北高等学校、九州大学情報工学部機械システム工学科、オーストラリアボンド大学経営学修士課程修了(MBA)。
横河電機株式会社の研究開発部門(R&D)にて産業用ネットワークの研究に従事。MBA取得後、海外マーケティング部にて同社主要製品の海外市場におけるブランド戦略・中期経営計画策定に参画。B2Bブランディングの先駆けとして後に知られるようになったVigilanceという力強いブランドキャンペーンを実施。退職後、株式会社ビズナビ&カンパニーを設立。戦略立案を軸に中小企業の意思決定支援業務を行う。また成長戦略や撤退戦略の手法として中小企業にもM&Aの手法が重要になることを見越し小規模のM&Aに特化した株式会社ビザインを設立。更に、M&Aの普及活動とM&Aアドバイザーの育成を目的に一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立。近年、アナログの世界に傾倒すること、価値を見直すことをテーマに、自ら高級スイス時計のブランドであるパリス・ダコスタ・ハヤシマを設立する現在は、売上規模数十億前後の成長意欲のある経営者と対話と通じた独自のコンサルティング手法を展開。経営者の頭と心のモヤモヤをスッキリさせ方向性を明確にすることを主な生業とする。
【著書・関連図書】
できる人の実践ロジカルシンキング(日経BPムック)
営業マネジャーの教科書(総合法令出版)
ドラッカーが教える実践マーケティング戦略(総合法令出版)
ドラッカーが教える問題解決のエッセンス(総合法令出版)
頭のモヤモヤをスッキリさせる思考術(総合法令出版)
実践『ジョブ理論』(総合法令出版)
この1冊でわかる! M&A実務のプロセスとポイント(中央経済社)
【関連URL】
■YouTube「早嶋聡史のチャンネル」
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■早嶋聡史の戦略立案コンサルティング
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