中学高校時代、古文はさっぱりでした。
でも教科書で触れていたおかげで七十を越えた今になって、和歌の味わいというか効能が少し分かるようになった気がします。
世間では昔からカルタだったり、今はドラマや映画で和歌が取り上げられていているので、ちょっとウレシイ。
で、今回も和歌の効用をオリジナルの歌と共に詠ってみました(笑)。

【和歌のスタイルで表現してみた】

Usage #66
何を目標にするのかが大事、の法則

ちはやぶる神の定めし命をば 世のため人のためにとぞ思ふ

[元歌]
ちはやぶる神の持たせる命をば 誰がためにかも長く欲りせむ 万2416
訳:ちはやぶる神が与えてくれたこの命、誰のために長くありたいと願うのか。

ちはやぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは 百人一首17/ 古今294
訳:ちはやぶる神代の時代でもこういうことがあったと聞いたことがありません、紅葉が龍田川を唐紅色に染め上げるとは。

[解説]
今回、元歌は、枕詞の「ちはやぶる」が冒頭に来る二首。
二つの違いは作者と時代差が180年もあること、共通点は5・7・5・7・7が心に染みること。最初の歌の作者は<今の令和に連なる元号がスタートした年>生まれの柿本人麻呂(かきのもと ひとまろ/645 – 724)。歌の聖と言われた人。
次の歌は古今集に載ったあと、百人一首にも採用された逸品。作者は在原業平(ありわらの なりひら/825~880)。平安時代の貴族・歌人。

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Usage #67
息切れすると命を感じるよ、の法則

たまきはる登り道をペダル漕ぎ続け 息切らすらむその坂険し

[元歌]
たまきはる宇智の大野に馬並めて 朝踏ますらむその草深野 万4
訳:みなさんが宇智の大野に馬を並べて、朝から草深い野へ踏み出るのです

[解説]
「ちはやぶる」の言葉の響きが良きなのはもちろん。でも「たまきはる」も良いぞ、という内なる声が聞こえました(笑)。
ちはやぶるは「神」にかかり、たまきはるは「命」にかかる枕詞。
でも万4には「命」の字がないんだけど、いいのか!?。
そんなこたあ、まあよしとして(笑)、この歌の作者は間人老(はしひとの おゆ/? – ?)。
飛鳥時代の豪族で第三次遣唐使になって一年かけて日本と中国を往復した人。そんな人が作ったこの歌は天皇に捧げる讃歌。「馬並(な)めて」のフレーズを見ると、馬に乗った人々が並んでいる様子が見えてくるよう。
さて、現代。馬はないけど、自転車で長い上り坂を漕いでハアハアなると生きている感じがします。

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Usage #68
酒を飲んでしばらく黙るもよし、の法則

酒杯になみなみ注ぎ思ふどち 飲みての後は物いわずともよし

[元歌]
酒坏に梅の花浮け思ふどち 飲みての後は散りぬともよし 万1656
訳:盃に梅の花を浮かべて仲間同士で宴会を開く。みんなで飲んだ後、花は散ってよろしい。

[解説]
「ちはやぶる」「たまきはる」に続いて、大好きワード「思ふどち」が入っている歌。
この歌の良いところは、皆で酒を飲んだ後ならお前(梅の花)は散っても良いぞ、と言い渡す潔さ。
作者は、大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ/? – ?)。飛鳥・奈良時代の歌人。大伴旅人の異母妹で家持の叔母。
気心合った仲間と酒を飲んだり、馬並めて山野を歩いたり、これこそ豊かな時間の過ごし方じゃ。

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Usage #69
変化は良い言葉で表すのが良き、の法則

長い間使ったもの使わないものを眺めては 神さびにけりとつぶやくよろし

[元歌]
君が行き日長くなりぬ奈良路なる 山斎の木立も神さびにけり 万86794
訳:貴方様がそちらで着任してからだいぶ日が経ちました。奈良路のご自宅の庭の木々が神さびております。

[解説]
結局、好きなワード「神さびる」で締めることになりました。
長くあるものを「古い!」とか「汚い!」で片づけるのではなく、「おお神さびておる」と言ってみると良いんじゃないか。
いや、もちろん自転車のチェーンが赤く錆びているのはよろしくないです、注油しましょう(笑)。
じゃなくて、古くなったものや年代を経たものを「神さびる」と表現してみると、良い感じがしますぞ。
この歌の作者は、吉田宜(きちだ の よろし/? – ?)。奈良時代に百済から渡来した帰化人の医師。

profile

安部 博文
あべ・ひろふみ:1953年、大分市生まれ。大分大学教育学部物理学科卒業、師匠は田村洋彦先生(作曲家)。由布院温泉亀の井別荘天井桟敷レジデント弾き語リスト(自称)。大分大学で第1号の経済学博士、指導教員は薄上二郎先生(現青山学院大学経営学部教授)。国立大学法人電気通信大学客員教授。電通大認定ベンチャーNPO法人uecサポート理事長。
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