良い言葉を聞くとよい気持ちになり、そうでないと……言葉と心はほぼ一体のよう。
ということで良い言葉は心身の健康にも良いはず。と思っていたら、我らが大伴家持が防人(さきもり)たちの良き言葉を集めて万葉集に詰め込んでいてくれました。煎じて飲もう先人の心。

【和歌のスタイルで表現してみた】

Usage #74
傍観している人を悪く言わないのが良き、の法則

今度の担当は誰?なんて言う人が羨ましい、自分ごとじゃないからね

[元歌]
防人に行くは誰が背と問ふ人を 見るが羨(とも)しさ物思もせず 万4425 
訳:防人に行く人はどなたの夫ですか、と問う人を見ると、物思いすることもないのだろうと羨ましい。

[解説]
毎日働いて暮らしているところに、急に偉い人から「防人になって23年、九州に行ってもらうことになりました」と言われたら、ええーっと思うだろう。本人はもちろん家族にも影響する。この歌は防人に指定された人の妻が気持ちを詠ったもの。噂話をする人に「物思いもなくて羨ましいわ」と言って見せる。その強さ、良き。歌の作者は未詳。磐余伊美吉諸君(いわれのいみき もろきみ ? – ?)という役人が防人の歌を集めて大伴家持に提出したので今もこうやって目にできる。

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Usage #75
後になって悔やむこと多し、の法則

計画を知らせないまま開始して 皆との認識がズレて悔やむ

[元歌]
旅行きに行くと知らずて 母父(あもしし)に言申さずて今ぞ悔しけ 万4376
訳:防人に指名されたので家を出た後になって、両親に報告しなかったのが心にのしかかる。

[解説]
この歌を見て私の中2からの友達の三木君を連想した。防人になって九州に行くような大事な話を親に報告せずふいっと家を出た、そしてそれを心残りに思っている。三木君みたいやな、と思った(ごめんな、三木君)。でもきっと親も分かっているのだ。悔やむこたない。この歌を詠ったのは川上老(かわかみ の おゆ ? – ?)。出身は下野国(今の栃木県)。防人のリーダーとして筑紫に派遣された人。

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Usage #76
顔を見るのはメチャ大切、の法則

大切なものは常に思うが良し 図絵にして眺めるはなお良し

[元歌]
我が妻も絵に描き取らむ暇(いつま)もが 旅行く我は見つつ偲はむ 万4327

訳:妻の似顔絵を描く暇があれば良かったのになあ、そしたら旅先で見て思い出せるのに。

[解説]
万葉集の防人は時期が755年。この時代は写真がないので、作者は妻の似顔絵を描いて持って来れば良かったと言っている。良きかな。豊かな人物像が浮かんでくる。この人は物部古麻呂(もののべ の こまろ ? – ?)。出身は遠江国(今の静岡県)。

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Usage #77
決意はポジティブに表すのが大事や、の法則

今日からは今までのことは放り置き 前に向かって頑張るが良し

[元歌]
今日よりは顧みなくて大君の 醜(しこ)のみ楯と出で立つ我は 万4373

訳:今日からは後ろは振り返らず、大君の強い楯となって前線に立つのだ、私は。

[解説]
万葉集の防人の歌は九十首少々ある。その中でこの歌のように決意表明しているのは意外に少数。あとは、「ったくしょーがねえな」と思いながら関東から九州まで行ってるので、そりゃ強力な防衛線になるわ。この歌の作者は今奉部与曽布(いままつりべ の よそふ ? – ?)この人も下野国(今の栃木県)の出身。防人の「火長」として筑紫に派遣。火長とは、律令軍団制では10人で1火という単位が編成され、その長。

profile

安部 博文
あべ・ひろふみ:1953年、大分市生まれ。大分大学教育学部物理学科卒業、師匠は田村洋彦先生(作曲家)。由布院温泉亀の井別荘天井桟敷レジデント弾き語リスト(自称)。大分大学で第1号の経済学博士、指導教員は薄上二郎先生(現青山学院大学経営学部教授)。国立大学法人電気通信大学客員教授。電通大認定ベンチャーNPO法人uecサポート理事長。
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