
万葉集の編集人・大伴家持は自らの歌も万葉集に収めている。その中から家持作の生き物が出て来る歌を集めてみました。すると百首超え(!)。どんな生き物がいるかというと、馬、鹿、鷹、雁、雉、鶉、鴫、千鳥、都鳥、鶏、鶴、ひばり、うぐいす、ほととぎす、ひぐらし、鰻、鮎、鮪、貝。一番多いのは、ほととぎすで五十首超え。一番少ないのが、ひぐらしと鮪の一首。
今回は、昔を思い出して、気持ちが穏やかになる歌を選んでみました。
【和歌のスタイルで表現してみた】
■Usage #78
ときに寄り道も良き、の法則
由布の水源さして行く 道の途上で車しまし止め
[元歌]
渋谿をさして我が行くこの浜に 月夜飽きてむ馬しまし止め 万4206
訳:渋谿(しぶたに)を目指して進んでいると浜で月が出てます。ここで馬を止めてゆっくり鑑賞しましょう。
[解説]
この歌の目的地は、東京の渋谷ではなくて富山県高岡市の渋谷。家持が赴任していた時の歌。移動手段としての馬が出て来た。高校時代、仲間と自転車で湯布院まで行こうと盛り上がり明磧橋に集合……までは良かったけど、先の道のりを想像してビビり、あっさり中止。家持は目的地にひたすら急ぐのではなくて、馬を降りて夜の月を眺めるゆとりがあります。人も馬もちょいと一服が大事、という教訓ですね、この歌は。
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■Usage #79
特長は、つど磨くのが良し、の法則
由布の麓の湖の水の面に 霧立ち上り山の顔隠すらむか
[元歌]
高円の秋野の上の朝霧に 妻呼ぶ雄鹿出で立つらむか 万4319
訳:高円の秋の野原を朝霧が覆う時間。霧の間から牡鹿が立ち現れ妻を呼んでいます。
[解説]
奈良の高円は朝霧と鹿が特長。豊後の由布も霧、そして山と湖が特長。由布の霧は高い所から見ると盆地を覆い隠す。盆地側から上を見ると霧の間から麓の木々が立ち現れるのが見えます。カメラマンから「瓦マン」になった写真家の山田脩二さんが、大学生だった私に「見てごらん」と言ってファインダーを通して由布岳の木々を見せてくれました。いつもの風景が写真作品になってました。カメラマンとはすげえものだ、と驚いた記憶があります。「万 4319」を見ると思い出す記憶です。
ところでこの歌には続いて「ますらをの呼び立てしかば さ雄鹿の胸別け行かむ秋野萩原」の4320番が来ます。この歌からは、波を左右に切り分けて進む船首のイメージが浮かんできます。土地の特長を伝える歌よきかな、です。
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■Usage #80
することを済ませてから酒は呑むべし、の法則
六弦を今は弾かむと片待てば 酒にほぐれて時は経につつ
[元歌]
うぐひすは今は鳴かむと片待てば 霞たなびき月は経につつ 万 4030
訳:ウグイスが鳴くのを今か今かと待っているうちに、月が霞をたなびかせながら動いて行きました。
[解説]
この4030番の歌には「酒」という単語は出ませんけれど、ウグイスを待つ間、家持が一杯やらないはずもないだろう、と解釈しました。ウグイスを待ちながら一杯、「なかなか来ないね」と言ってまた一杯、「どうしたのだろうね」と言ってさらに一杯……違うかな(笑)。
実はこの一杯が曲者。呑んだ後、あれをしてこれをして、と考えていたことが結局パアになるので。ウグイスには早く来て鳴いてもらいたい家持。六弦(ギターのこと)は早いうちに鳴らしておきたい私め。分かっていながら叶わない、だから歌になるのかな、と勝手なことを思ったりします。
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■Usage #81
鰻を食ふべし、の法則
夏痩せには鰻ぞ干し柿ぞ 三木のひろみちに我もの申す
[元歌]
石麻呂に我物申す夏痩せに 良しといふものそ鰻捕り喫せ 万3853
訳:石麻呂に私は言ってあげよう。夏痩せに良いという鰻を捕って食べなさい。
[解説]
中学生の時期は食いしん坊なので、中2の三木君は干し柿を目にすると理性を失いました。最初、三木君は持っていたモデルガンの弾一発と私が持っていた干し柿一つを交換。むしゃむしゃ食って、これを三回繰り返した後、最後はモデルガン(コルト45)一丁と干し柿六つのトレードになりました。干し柿すごし。
3853番の歌は、痩せの大食いで有名だった石麻呂(本名、吉田老)に、家持が「夏痩せには鰻が効くぞ、捕まえて食ったらどうよ」とからかう歌。この歌にも続きの3854番があって「痩す痩すも生けらばあらむをはたやはた 鰻を捕ると川に流るな(痩せていても元気なんだから、鰻を捕ろうとムリして川で流されるんじゃないよ)」と付け加える。
いまの三木君は酒も呑まず食べ過ぎず行き届いた健康管理をする人になっています。
