万葉集に収められている和歌は4516首もあって、どれをとってもひとこと添えたくなる歌ばかり。
なぜかというと、人を思いやる優しくポジティブな気持ちが歌から心地よく伝わってくるからじゃないか、と思うんだけど、どうでしょう。

今回は前回に続いて万葉集の編集人・大伴家持が作った生き物の歌です。家持は生き物の歌が多いので、どれくらいあるのかなと思って集めてみました。百首近くあるんじゃないかな。歌を眺めていると、あれもこれも取り上げたくなって……というわけです。

【和歌のスタイルで表現してみた】

Usage #82
「いかにすれば」は必ずしも問いかけにあらず、の法則

いかにせばこれは何か 問いかけにも似る人の声 耳吹き抜ける風の音

[元歌]
ほととぎすまづ鳴く朝明いかにせば 我が門過ぎじ語り継ぐまで 万4463
訳:ホトトギスが朝の第一声を我が家の門で響かせる、これが語り継がれるようにするにはどうやれば良いのか。

[解説]
この歌を最初に見たとき、家持さんも無理なことを仰るなあ、と思いました。……が、しばらくするとちょっと変わって、これはもしかすると遊びの歌ではないか、と思うようになりました。遊びだから、この歌を見て、頬を緩ませる。あはは、と笑う。物事をキツキツに捉えるのではなく、ふわっと受け止める。いつ・誰が・どこで・何をしたのか、成果は何だ、メリットは何か、と問い詰めるのではなく、ほわわわーん、へえそんな感じなんだと受け止める。「へえ」とか「ほう」というソフトな受け止め方、それもまたヨシ、それがまた良き。4463番は、家持が正解を求めている歌ではなくて、大事なことを自分の手の内に収めて人にちょっぴり自慢したい気持ち。わかるかなー、わかんねえだろうな(笑)、なのではないでしょうか。
※4463番の前後に出て来る人:馬国人、大伴池主

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Usage #83
家の外に出ると何か良いことある、の法則

独り居るもよしほどろほどろに出るもよし 隠れる者ほどよく生きると言ひ

[元歌]
隠りのみ居ればいぶせみ慰むと 出で立ち聞けば来鳴くひぐらし 万1479
訳:部屋に籠りきりになっていると心が塞がる気分になるので、気分転換に外に出て見た。すると飛んで来たヒグラシが鳴いているわい。

[解説]
1479番は教訓のようにも見える歌。格言で言う「犬も歩けば棒に当たる」が近いような……。家持は先人が遺した歌集をたくさん持っていて、それを元に選集を作ったり、自ら詠う時間を持っていました。時には作業が煮詰まって気分が塞ぐ、いぶせき状態になることもあったことでしょう。そんな時、部屋の外に出ると、聞こえたのがヒグラシの声。この瞬間いぶせき心を忘れ、癒されたに違いありません。ひぐらしが出て来るのはこの一首だけ。貴重です。
※1479番の前後に出て来る人:大伴書持(家持の弟)

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Usage #84
土産は忘れずに、の法則

土産は貴方様のことを思っていましたよのメッセージ 貝や紅葉に託すもよし

[元歌]
家つとに貝そ拾へる浜波は いやしくしくに高く寄すれど 万4411
訳:うちへの土産にと思って浜辺に行って貝を拾ってみた。次々に高い波が寄せて来る浜だ。

[解説]
「家つと」とは何だろうかと思って調べると、手土産のことでした。家つと、としての貝。そういえば昔、海岸に行ったときは貝殻を拾っていました。ガラスの破片は丸くなってたりして。石ころも角がなくなっていたりして。今思ふと、あれはとても良い家つとでした。海まで行かずとも、葉っぱとか木の実とかネジとか(笑)、道や部屋にころがっているものも家つとにできそう。
※4411番に出て来る人:大伴坂上大嬢(家持の妻、家つとの相手)

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Usage #85
お気に入りは古びても良き、の法則

スピーカーひとつだけと人は思へれど かぐわしき音のせせらぐこの部屋

[元歌]
鶉鳴き古しと人は思へれど 花橘のにほふこのやど 万3920
訳:うずらの鳴き声が聞こえ、古くなった家だと人は思うかも知れない。けれど花橘の匂いがするこの家を、私は気に入っているんだ。

[解説]
ウズラのゆで卵は大好きなんだけど、本体が鳴くのを聞いた記憶がありません。どんな鳴き声なのでしょう。家持は家の古さを伝えるのにウズラを持ってきているので、きっとクラシカルな鳴き声なのでしょう。3920番の歌で家持は自分の家が気に入っていると表明しています。これ、上手な自慢の仕方なのでぜひマネしたい、と思います。けど、にほふものないので、家持と同じようにはまいりません。どうしましょ。で、思いついたは、PCのスピーカー。普通は左右に置くものだけれど、机が狭いので一個だけにしてます。自慢にならないけど、これを自慢することにしました。
※3920番の前後に出て来る人:山部赤人橘諸兄

profile

安部 博文
あべ・ひろふみ:1953年、大分市生まれ。大分大学教育学部物理学科卒業、師匠は田村洋彦先生(作曲家)。由布院温泉亀の井別荘天井桟敷レジデント弾き語リスト(自称)。大分大学で第1号の経済学博士、指導教員は薄上二郎先生(現青山学院大学経営学部教授)。国立大学法人電気通信大学客員教授。電通大認定ベンチャーNPO法人uecサポート理事長。
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