
[第67回 デジタル時代のマーケティング実践にあたって]
【問い】
事業会社が行うマーケティングは、一連のデジタル化により、どこも差別化が難しくなっています。そのような中、同じような事業モデルを展開する店舗系のマーケティング活動において、どのような取り組みに力をいれるといいでしょうか?
【方向性】
マーケティング活動の目的は長期的に利益を生み出す仕組みづくりです。そのためには、自社のポジションを明らかにして、組織的にマーケティング活動を定着させることが大切だ。そして、マーケティング活動全体を見通せる仕組みを構築するのです。この取り組みは、昔も今も変わりません。自社のポジションを明らかにして、対象顧客に対して理想的なマーケティング・ミックスを提供することです。
【解説】
スマートフォンが普及し、在りとあらゆるデータが基本的に収集できるようになり、マーケティングはデータ分析が当たり前になりました。
一方で、顧客との接点(コンタクトポイント)は多種多様になり、マーケティング環境は複雑化しています。そのような環境下、マーケターは短期的な利益の追求と同時に、企業価値の向上に貢献すべく難題と向き合う日々を送っています。
さて、そんなマーケターは今後どのような取組をすべきでしょうか。
■3つの特徴
企業はミッションやビジョンを追求するために、その原資として必要なキャッシュを稼ぐ必要があります。キャッシュは売上から費用を引いた残りです。同じような商品であれば、顧客は安いものを求めます。一方で、価値を認めればそれなりの単価を支払います。
そのため、基本的に企業が探求すべき取り組みは独自の価値、つまり「安く提供できる仕組み」か、それ以外の「新しい価値を創造」し提供し続けることが大切です。
全国に同じような形態で事業を展開する企業の特徴は、次の3つがあります。
まず、業界のトップをベンチマークしていますが、独自のポジションを確立できないでいます。あらためて自社や商品のポジショニングを明らかにすることが重要です。
次に、仕組みとしてマーケティングが定着していない点があげられます。
店舗系の事業であれば、売上拡大のために出店して、新商品を提供することで売上を獲得してきました。優れた商品を提供することで来店者が増し、その顧客に対してリピート策を講じてきました。
しかし、盲点はそもそも来店しない顧客にリーチできていないので、少子高齢化と共に顧客の総数が減少しはじめています。そのため、来店しない顧客に認知を得る取り組みが重要になってきます。
最後に、比較的大きな組織で観察される特徴は、組織が連携せずに各々の機能が独立して縦割化されていることです。
企画は商品を考え、営業は商品を売り、カスタマーサクセスは、アフターフォローを行う。各機能は一見役割分担がきれいに行われているように見えますが、カスタマーサクセスから商品企画にフィードバックがいく仕組みがない企業が多いようです。営業は常に値引きをしてノルマを稼ぐので、利益の貢献度合いが見えにくいのです。本来のキャッシュを最大化するための組織的な役割を全社最適に取り組むべきです。
■自社のポジションとは
一定期間事業活動を行い、顧客が定着している企業は、独自のポジションが必ず定着しています。
大切なことは、そのポジションを再度言語化して、正しくマーケティング活動に活用することです。
そのポジションはゼロから構築するのではなく、これまでの活動を見直し、実際に構築したブランド資産、顧客の声を確認し、顧客が求める要素を整理しなければなりません。そこから自社が取り組んだ競合との差別化について再び体系的に整理するのです。
マーケティングを行う上で、自社のポジションを明確にすることは重要です。
通常は、市場分析と競合分析を行い、自社がどのように認知されているかを確認します。そして顧客の声を聴き、分析結果と自分たちが考えるポジションが一致していることを確認するのです。これらを文字や絵や音などを使ってポジションを概念化するために、商品や価格、流通や販売促進活動などの整合性を取るのがマーケティングの一連の仕事になるのです。
「ポジション」とは、商品や企業のイメージをどのように表現するかの指針であり、そのポジションによってコミュニケーションの在り方やパッケージ、時には価格帯だって変わってきます。
例えば、クラスに人気者や優等生がいると、それぞれが自分のポジション持ち、そのポジションを理解しながら行動をする状況を思い出してみてください。仮に漫画「ちびまる子ちゃん」の主人公・まる子が勤勉で、お母さんからも怒られることが無い女の子だとすれば、それはまる子ではありません(笑)。クラスの花輪クンが、貧乏で勉強もできなくてウジウジしていたらそれは別の登場人物になってきます。
顧客のアタマの中にあるポジションを理解して、それを適切に表現することが、企業にとって重要なのです。
■マーケターの仕事とは
モノが不足した時代は、マーケターの仕事は「製造」と捉えられました。
情報格差があり地域差があった時代は、「広告宣伝」がマーケティングと捉えられました。
しかし、いつの時代でもマーケターの仕事は、「長期的に利益を生み出す仕組み作り」にあります。
そのために、企業のポジションを明らかにして、対象顧客に対して理想的なマーケティング・ミックスを提供するのだ。
マーケティング・ミックスとは、いわゆる「4P」と言われるフレームワークで、Product(製品)・Price(価格)・Place(流通)・Promotion(販売促進)を俯瞰的に捉えて利益につながる施策を実行することです。小手先で販促手法を変えても、ターゲットがずれていたら効果は薄い。どんなに素晴らしいコミュニケーション手段を持っていても、対象顧客がリーチできなければ売上に繋がりません。
常に、事業全体を俯瞰して利益の追求を最大化する仕組みを考えることがマーケターの仕事になるのだ。
■データ化の落し穴
スマホが普及して、顧客情報を獲得するためのツールは、クレジットカードやハウスカードから、アプリを顧客にインストールして頂く仕組みが定着しました。そして、そこで蓄積したデータを活用して継続的に来店や購買を促す取り組みを、どの企業でも行われるようになりました。
企業はアプリの利用データを分析して購買履歴を元にクーポンを発行したり、利用を促したりしています。しかし、これは既に来店してその企業や商品を認知している既存顧客に限って行われていることを常に理解しなければなりません。
そしてどんなに優れた仕組みであっても、その取り組みは他社や競合も簡単に模倣ができる仕組みであり、自社のポジションを構築する活動につながりにくいことも理解しておきましょう。
これら一連の取り組みであるCRM(顧客関係管理)は、既存顧客とのコミュニケーションを改善して、顧客の再利用や再来店を促すこと、あるいは満足度を上げて解約率を解消するには有効です。
しかし、自社の差別化を実現し、競争優位なポジションを確立するためのツールとしては弱いという一面もあります。
データの活用は、実際のマーケティング施策がどのように効いたのかを検証し、確認するためのツールとして捉えるべきです。
