コピーは文学や格言じゃない!

コピー(キャッチ)はときどき“瞬間文学”とか“時代の格言”と形容されることがあります。確かにそういう人の心を揺さぶるコピーがあることは事実ですし、『コピー年鑑』という本に収録されている作品は僕も名作だと思います。

ちょうど手もとに2012年3月に発行された『傑作!広告コピー516』(文春文庫)という本があるのですが、ページをめくると名作キャッチがたくさん並んでいます。この本は1980年から2001年に生まれたコピーの中から優れた作品を選出したものなので、若干古臭い感じのものもありますが、いま見ても素晴らしいキャッチがいくつもあります。こういう作品を見ていると、確かに“瞬間文学”とか“時代の格言”と言いたくなります。

しかし、その側面からしかコピーを評価しない人や、“瞬間文学”を自分も書きたいと思ってこの世界に入ってくる若い人に出会うとイラッとしてしまいます。そういう人は、コピーがマーケティングの一つの手段であることを忘れているような気がするからです。

このような名作コピーのアンソロジー(いろいろな作家の作品をある基準で選び集めた本。あるいは、同一作家の選集)はこれまでにもありました。こういった本はコピーを通じて当時の時代を考えたり、コピーライターの作風を知るにはもってこいなのですが、作品が一人歩きして文学や格言として捉えられるという危険性があります。広告のことを知らない人が、こういう本を見てコピーとはこんなものだと思ってしまうことに僕は不安を感じてしまうのです。

僕が真の傑作コピーと思う作品とは

僕と同世代のコピーライターなら恐らく誰でも知っている名作中の名作が、1959年からアメリカで始まったフォルクスワーゲンの広告キャンペーンです。この一連のキャンペーンの中で今も記憶に残っているのが1台のフォルクスワーゲン(新車)をドーンと大きく載せ「Lemon」というキャッチがつけられた広告です。Lemonにはレモン(の実)という意味もあるのですが、一方で「不良品、欠陥品」という意味があるそうです。

新車の広告であるにもかかわらず欠陥車というキャッチにした理由とは…。誰でも興味を持ってボディコピー(本文)を読みたくなります。その一行目にはこうあります。「このフォルクスワーゲンは(注:ドイツの港からアメリカ行きの船に)船積みされませんでした」。続く第2行目は「車体の1ヵ所のクロームがはがれ、 しみになっているので取り替えなければならないからです。 およそ目につくことがないと思われるほどのものですが…」。

1950年代当時のアメリカの自動車の広告は、虚飾に満ちた広告ばかりでした。そんな状況の中で、フォルクスワーゲンはこの広告キャンペーンによって誠実というイメージを獲得していきます。ちなみに売り上げ的には、1958年のワーゲンの販売台数が年間7万8000台だったのに対し、7年後の1965年には35万台(4倍以上)に増加しています。

この広告は、現代の日本では通用しないでしょう。情報洪水の時代の中にあって「欠陥車」というコピーは非常に危険だからです。今よりも情報が少なく、ゆとりのあった時代だったからこそ成功した広告といえます。

それでも商品に対する着眼と時代の読み方は、現代でも広告制作のお手本と言っても過言ではないほど素晴らしいものです。広告は商品やサービスの長所をクローズアップして、それを分かりやすく伝えることが基本です。しかし、それだけではありません。

広告というと、商品やサービスを“どのように”伝えるべきかということばかりに目が向けられがちですが、その前に“何を”伝えるべきかに注力すべきなのです。フォルクスワーゲンの広告キャンペーンは、時代を超えてそのことを僕たちに教えてくれます。

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一丸幹雄 
(いちまる・みきお)

昭和30年、大分県杵築市生まれ。

日本大学法学部新聞学科卒業。㈱宣伝会議「コピーライター養成講座」一般コース・専門コース修了後、東京の広告制作会社に勤務。昭和56年にUターン後、大分市の広告代理店、制作会社に勤務。県内各企業の広告や行政の広報、雑誌の取材・執筆を手がける。 現在、フリーランスとして活動中。