◎「閾値」を家訓に

閾値(しきいち)という言葉をご存知でしょうか。

私はこの言葉をある著名な研究者の講演で知りました。「研究開発を成功させるには辛抱強い努力の積み重ねが必要。努力が一定の量、質を超えた時にはじめて成果を得ることが出来る。その努力の強さの値を閾値という。閾値を超えるまであきらめずに取組んで欲しい」といったお話だったと思います。私はこの言葉にひどく感動し、この言葉を「家訓」にすると、その頃まだ小学生だった2人の子どもを前に大きく「閾値」と紙に書いて貼ったものです。

◎一度だけ確かに越えた

しかし生来、地道な努力や歯を食いしばるほどのがんばりが苦手な私(おそらく家族も)は、閾値を越えるほどの努力がなかなかできません。一応登山を趣味にしていますが、一番キツイ9合目あたりで、「もういいか」と下りてしまうことが幾度もありました。大金をはたいて参加したアフリカ・キリマンジャロ遠征登山も9合目の小屋でトラバースしてしまい、日本百名山を北から制覇しようと出かけた北海道の山々もいくつかは頂上の景色を見ないままでした。

このように情けない性格ですが、ひとつだけがんばった事があります。

それは中小企業診断士資格試験に合格したことです。経済や経営、中小企業政策全般の勉強を出勤前に必ず1時間、休みの日に2時間、それを5年間続けました。試験に関係ある本以外は殆ど読みませんでした。あまりにも長くかかったので、合格したときは嬉しいという実感はありませんでした。

けれども5年間の勉強はそれからの私の仕事の自信の基になりました。おまけにご褒美ではないですが、勤務先から昇格・昇級をしていただきました。そして今も中小企業診断士の看板でコンサルタント事務所を出しています。「合格」のただ一点を注視していた5年間の自分を今でも思い出し、「一体あれは何だったのか…」と思うことがあります。

◎幾つも越えて行く企業

私が古くからおつきあいしている、大分で創業30年を超えたIT企業の社長さんのことをお話しましょう。

ある日、私が「この激変の情報通信業界で30年生き残っただけでも奇跡ですよ」と冗談混じりに言うと、社長さんは「売り上げが立たず、銀行も取り合ってくれないで、もうだめだと思ったことが何度もあった。しかし、そんな時に限って不思議と新しい仕事が見えて来た」と返してきました。

この会社は、今や押しも押されぬ中堅企業ですが、これまでに幾つもの閾値を乗り超えた来たことだと思います。近頃は単に年を重ねただけではなく、風格が備わってきたように感じます。

◎新しい景色が見えてくるまで

最近は、国の「創業補助金」や「ものづくり補助金」の申請をたくさん手伝っております。企業さんの事業への思いの深さや、抱えるリスクなどを確認しながら、一緒に計画を作っていきます。

市場には、自分の「場」を確保するまで、越えなければならない閾値が幾つもあると思います。計画の途中で「もう止めよう」と思ってしまう経営者の方々の声も、たくさん耳にしました。そんな時に私は必ず、「新しい景色が見えてくるまで諦めない事です」と声をかけます。

何か壁を感じたとき、どうぞ声をかけてください。

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雪野佐喜子 
(ゆきの・さきこ)

大分県臼杵市出身 中小企業診断士。『ビジネス支援チーム7福人』代表。金融機関、中小企業に勤務の後、社団法人大分県地域経済情報センター、財団法人大分県産業創造機構で中小企業支援業務に従事。平成23年4月独立。中小企業診断士事務所『ビジネス支援チーム7福人』を開業。創業、経営革新、IT活用、施策活用などのコンサル活動を行っている。一般社団法人大分県中小企業診断士協会 副会長趣味はテニス、登山、飲酒、最近は短歌も。