今回は、イタリアの仕組みを参考に日本の地方創生について考えてみましょう。
イタリアの取り組みの中で地理的表示の活用のうまさがあります。EUでは農産品や食品の名称を保護する制度としてGI(地理的表示)保護制度が1992年に施工されました。GI登録をすることで、品質基準やブランドの価値を向上する取り組みができます。イタリアや他のEU諸国の企業や地域はその活用が非常に得意と言えます。

GI登録されている製品としては、例えば「カマンベールチーズ」があります。いわゆる「カマンベール・ドゥ・ノルマンディ」です。
このチーズは、フランスのノルマンディ地方で飼育されたノルマン種の牛の生乳を、少なくとも50%以上使用するのがルールです。チーズに詳しくない人でもカマンベールチーズと聞くと、何やらおいしいイメージを抱くことでしょう。
そして、生ハムの「プロシュート・ディ・パルマ」。
イタリア・パルマの丘陵付近で生産された生ハムのみがパルマハムとして許可され、ハムには王冠型の焼き印が押されています。御洒落なレストランの看板によくプロシュートハムを使った料理がお勧めに出ているのを見かけますね。これもGI登録された商品です。

一方、日本の農産品の地域ブランドは定義があいまいで、地理的表示、原産地保護制度などの対応が非常に遅れています。結果、偽造品が多数で回り、地域ブランドを上手く構築できていません。
例えば、「魚沼産コシヒカリ」。
本来は新潟県南魚沼市であるはずですが、原産地名称保護制度などで保護されていないため、流通量が実際の生産量の10倍から20倍ともいわれます。
山形県の「佐藤錦」。
誰もが食べたくなる高級さくらんぼです。しかし、これも地域名称や原産地が明記されないさくらんぼです。結果的に品種開発者が種を世界中に広めることで地域ブランドの可能性を小さくしました。
そして大分県の「関サバ・関アジ」、さらに青森県大間町の「大間マグロ」などは、水揚げされた漁港ということだけでブランド化されています。
これは非常に不思議な取り組みです。商品の差別化の基準もあいまいで、陸揚げ港の名前で価格が数倍にもなるのです。
少し大きなブランドとしては和牛があります。規格がなく、同品種の豪州、米国でも「WAGYU」として飼育がされています。

上記を整理すると、
(1)全般的に標準化や均一化や規格化がなされていない
(2)生産工程などのプロセスが統一されていない。
(3)地域の定義や認証プロセスが定められていない。
ということが見えてきます。
つまり、皆が勝手に好き放題に行っている。悪く言えばと「烏合の衆」となっているのです。
企業のマーケティング活動に当てはめると、ブランディングや自社の価値向上の取組に力を入れているところは、マーケティング担当取締役が各商品やブランドにマネジメントを配して決められたルールとコンセプトのもとに、全体最適で運営されています。
一方、大企業であっても価格競争に強いられている企業ほど、自社のマーケティング活動がバラバラで、商品企画や販促担当者などがコミュニケーションをとらずにバラバラで活動をしています。これはイタリアの取り組みと日本のそれに非常に近いことを感じます。

さて、これまで見てきたイタリアの取り組み事例から農産物や食品、工業製品、中小企業について整理してみましょう。

■農産物や食品
品質基準や製造基準を明確にして、地域や国内流通の視野から一気に世界に向けて発信する取り組みを考える。地域産品での規模をちまちま取り組まずに100億以上の産業として捉えなおす。そのために地域がバラバラで行うのではなく、ブランディングを上手く行う企業のようにふるまう。そのためのポイントは全体最適とマーケティングです。
■工業製品
一部が海外の製造であってもイタリアのように、日本製、Made in Japanの担保を行う工夫をする。そのためにはデザインや最終工程、そして全体の品質維持向上はこれまで通り死守していく。小さな企業がバラバラで1社単位に行うのではなく、イタリアのように産業をクラスタ化してまとまった単位での世界化を考える。後継者がいない暗い未来から誰もが仕事をしたくなる明るい未来をチームとして創出する。
■中小企業
大企業の模倣をして手広く商品を出しても生きる道は小さい。であれば、ニッチに深堀をして市場を地域や国内から一気に世界に広げて販路を拡大する。イタリアの事例を学べば小さな規模でも世界で十分に通用することが理解出来る。値下げ競争をしてもそもそも体力が無いのだから、付加価値をつける取組を継続して、価値が分かる相手との商売に切り替えるのです。

全体としては、自分たちの取り組みを産業という意識を持ち、時間軸を長くして長期的な目線で取り組みます。企業が地域に貢献して、拡大しても中央に本社を移さないで地元に明るい未来を示せば、自ずと若者の雇用も生まれ、誇りをもって地元企業で仕事をしたくなるでしょう。
ニッチに深堀をして、世界から「〇〇だったら日本のこの地域」という、目的ブランドとしての認知を得られるように努力する。そしてその理解を得るために産業を集約していく。絞り込んだ地域では、まとまって徹底的に深堀をするのです。
そこでは、これまでのバラバラ1社単位の活動をやめ、地域でまとまって、世界との交渉を行います。企業がまとまれば、そのようなディレクタークラスの人材を数名は雇用できるでしょう。地域で出し抜き、足を引っ張り合っても10年ももたないでしょう。「俺が、俺が」から、協力しあって世界を相手にビジネスを仕掛けていくのです。

都内一極集中で、東京にアピールするのはもうやめましょう。はじめから世界に市場を見出す。そう決めれば、広告宣伝媒体の取り組みや展示会の取組も自ずと方向性が変わってきます。
かつての一村一品運動は良かったのですが、上記を考えると規模が圧倒的に小さいです。
都道府県や産地を丸ごと対象と捉えてその地域の特化する部分を決めてプロジェクトを進めます。地方創生は産業と捉え、最低でも100億規模のビジネスを行うために何をすべきかを考えます。国の予算をあてにせずに各社が集まり共同して出資し、世界規模でアプローチできる人材を数名雇用して取り組むのです。

profile

早嶋 聡史 氏
(はやしま・さとし)
株式会社ビズナビ&カンパニー 代表取締役社長
株式会社ビザイン 代表取締役パートナー
株式会社エクステンド 取締役
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事

長崎県立長崎北高等学校、九州大学情報工学部機械システム工学科、オーストラリアボンド大学経営学修士課程修了(MBA)。
横河電機株式会社の研究開発部門(R&D)にて産業用ネットワークの研究に従事。MBA取得後、海外マーケティング部にて同社主要製品の海外市場におけるブランド戦略・中期経営計画策定に参画。B2Bブランディングの先駆けとして後に知られるようになったVigilanceという力強いブランドキャンペーンを実施。退職後、株式会社ビズナビ&カンパニーを設立。戦略立案を軸に中小企業の意思決定支援業務を行う。また成長戦略や撤退戦略の手法として中小企業にもM&Aの手法が重要になることを見越し小規模のM&Aに特化した株式会社ビザインを設立。更に、M&Aの普及活動とM&Aアドバイザーの育成を目的に一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立。現在は、売上規模数十億前後の成長意欲のある経営者と対話と通じた独自のコンサルティング手法を展開。経営者の頭と心のモヤモヤをスッキリさせ方向性を明確にすることを主な生業とする。
【著書・関連図書】
できる人の実践ロジカルシンキング(日経BPムック)
営業マネジャーの教科書(総合法令出版)
ドラッカーが教える実践マーケティング戦略(総合法令出版)
ドラッカーが教える問題解決のエッセンス(総合法令出版)
頭のモヤモヤをスッキリさせる思考術(総合法令出版)
【関連URL】
■戦略立案のビズ・ナビ&カンパニー
http://www.biznavi.co.jp

■中小企業のM&Aビザイン
http://www.bizign.jp

■日本M&Aアドバイザー協会
http://www.jma-a.org

■事業再生と廃業支援のエクステンド
http://www.extend-ma.co.jp