某社新入社員への講演依頼

1年ぶりにこのコーナーに舞い戻ってきたコピーライターの一丸幹雄です。またもや皆さんにお話できる機会をいただけるとは望外の喜びです。では、さっそく本題へ。

最近、ある会社の新入社員研修に招かれました。その会社では社内・社外から業務にかかわるいろいろな分野の人を講師として、講座を設けています。僕にも白羽の矢が立ち、何か話をして欲しいと依頼されました。僕は書き手であり、話し手ではないのでお断りしたかったのですが、日頃とてもお世話になっているお得意さまからの依頼なので承諾せざるを得ませんでした。

さて、何のお話をするべきか。結局、自分のこれまでの経験を通じて、プロになるためのステップ、ということをテーマにお話することにしました。

僕のコピーライターとしての出発点は、下記のプロフィールにもあるように、宣伝会議という会社が主催していたコピーライター養成講座です。先着順受付の一般コースと、選抜試験がある専門コース、合わせて1年間ほど通いました。文科省や厚労省が管轄する教育機関ではありませんし、受講したからといって、誰でもすぐコピーライターになれるわけでもありません。せいぜい履歴書にコピーライター養成講座を修了と書くことができる程度です。本当のスタートは、広告代理店や制作会社に入社してからです。

以前にもお話しましたが、コピーライターの仕事の中心はキャッチコピーと呼ばれる大見出しと、ボディコピーと呼ばれる本文を書くことです。キャッチ(コピー)もボディ(コピー)もそれぞれに難しいのですが、新人コピーライターはボディよりもキャッチに力を入れたがります。先輩デザイナーやディレクター、あるいはクライアントが評価するのはキャッチだからです。キャッチは短いのでアイデアさえ良ければ書けますが、ボディをきちんと書くためには地味な修業が必要です。

僕のコピーライター修行

僕が最初に入った制作会社には、コピーライターがいませんでした。つまり、細かい技術を指導してくれる人がいないという状況です。正直、途方に暮れました。それで、僕は自分で「いいね!」と思った広告のボディコピーを何度も書写するという作業を自分に課しました。僕が「いいね!」と思ったコピーを書いた人は、何を言いたいのか、どのように説得しようとしているのか、ボディの構造はどのように構築されているのか。そんなことを考えながら、ボディコピーを分析していくわけです。そんな訓練をしばらく続けていると、一流と呼ばれるコピーライターの癖とかスタイルが少し分かってきます。

次に、リライトする(書き換えてみる)という訓練をしました。最初は書写したボディコピーをリライトしてみようとしたのですが、一流のコピーライターの仕事は完璧で、新人の僕には出来ませんでした。そこで、それほどうまくない人(失礼!)の文章をリライトしてみるという訓練をしました。

そんな訓練を続けていると、同業の友人から「このコピーって、一丸らしいね」と言われました。いろんな人の真似をしたり、アレンジしたりしているうちに、どうやら自分のスタイルみたいなものができたようです。

ずっと後になって、「守破離」という言葉を知りました。「守」とは、物事の基本の作法・礼法・技法を身につける学びの段階。「破」 とは身につけた技や形をさらに洗練させ、自己の個性を創造する段階。そして「離」とは、「守」「破」を前進させ、新しい独自の道を確立させる段階のことです。

「守破離」は茶道や剣道などでよく使われる言葉ですが、あらゆる仕事のステップではないかと思います。ちなみに、守破離には続きがあって、「守りつくして破るとも、離るるとても本(もと)ぞ忘るな」とあります。

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一丸幹雄 
(いちまる・みきお)

昭和30年、大分県杵築市生まれ。

日本大学法学部新聞学科卒業。㈱宣伝会議「コピーライター養成講座」一般コース・専門コース修了後、東京の広告制作会社に勤務。昭和56年にUターン後、大分市の広告代理店、制作会社に勤務。県内各企業の広告や行政の広報、雑誌の取材・執筆を手がける。 現在、フリーランスとして活動中。