もしも古本屋さんから仕事を依頼されたら…

多くのビジネスには、一定のイメージというものがあります。たとえば、肉屋さんなら大きなショーケースがあるとか、不動産屋さんなら賃貸物件や売り物件の張り紙が店頭にペタペタ貼ってあるというイメージです。同じように、古本屋さんにも一定のパターンがあります。近年は「ブックオフ」のような新古書店の登場で若干雰囲気が異なるお店もありますが、古くからある古書店には共通するパターンがあります。

こういった古書店は個人経営のお店が多く、広告費なんてものはほとんどないでしょう。だから、僕のところに広告の話が持ち込まれることはまずないと思います。しかし、もしも古本屋の『○○書店』から「今度、店をリニューアルするから、売りに結びつくような提案をして欲しい」という依頼があったとしたら…。僕は次のようなステップで、計画を立案していきます。

コピーライターは広告の文章を書くだけでなく、こんなことから考えるということを前・後篇の2回に分けてケーススタディとしてお話します。

ただし、現在の僕には古書店業界の知識は皆無なので、あくまでも机上のプランとしてご覧ください。今回のコラムの目的は、僕ならこんなふうに物事を考えていく、という一例を古本屋さんという具体例を通してご理解いただきたいということにありますから、そこのところはご賢察ください。

ステップ(1) 古本屋さんのイメージの解析

まず、古本屋さんのイメージを解析していきます。古本屋さんといえば、まず思い浮かぶのが“古臭い”ということでしょう。店頭を見ればテント地の日除けに『○○書店』の文字が見え、店内はやや暗め。入り口付近のワゴンには特価品らしき古雑誌や文庫本が雑然と置かれている。店内の古い本はなんとなく他人の手垢が付いていそうだし、清潔感があまり感じられません。だから、若い人は古本屋さんに行かないのかもしれません。しかし、他人の手垢が付いているという点では、図書館の本も同じです。ところが、図書館にはいつも大勢の来館者がいます。それに“古臭い”モノは売れないかというと、そんなことはありません。たとえば、古着は若者にも人気がありますし、古本が並ぶマンガ喫茶にも大勢の人が出入りしています。

話は少しそれますが、「ブックオフ」はなぜ、今のような発展を遂げたのでしょうか。1990年に創業した「ブックオフ」は、それまでの古本屋のスタイルを打ち破り、「新古書店」と呼ばれる新しい古本屋の形態をつくり上げました。店内の面積を広めに設定し、コンビニのような明るい照明を導入し、商品の臭さを抜くための対策を施し、業界では禁止事項だった立ち読みも可能にしたこと。これらが生活者に受け入れられ、全国にチェーンが拡大していったわけです。

このように、旧来のスタイルを打破したことで「ブックオフ」は古書店業界に活路を開きました。もちろん、比較的新しい本を取り扱う新古書店に特化した、という点が大きいのですが、生活者の「こうあって欲しい」という潜在意識に応えたことが最大の成功要因だったと思います。

では、旧来の古い本も取り扱う古書店に未来はないのかというと、そんなことはないと思います。大都市圏の古書店では、ある分野の本だけを集めてマニアの間で有名になった古本屋さんがあるということを聞いたことがあります。もっとも、これは人口が多い大都市圏だから成立したのであり、大分のような地方都市では難しいでしょう。

次回は、大分程度の地方都市の古本屋さんができる(資金のことは架空のプランなので度外視しますが)リニューアルプランについて、“言葉”を中心的な道具にして具体的に考えていきたいと思います。

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一丸幹雄 
(いちまる・みきお)

昭和30年、大分県杵築市生まれ。

日本大学法学部新聞学科卒業。㈱宣伝会議「コピーライター養成講座」一般コース・専門コース修了後、東京の広告制作会社に勤務。昭和56年にUターン後、大分市の広告代理店、制作会社に勤務。県内各企業の広告や行政の広報、雑誌の取材・執筆を手がける。 現在、フリーランスとして活動中。