コンセプトとは何でしょう?

コピーライターに必要な力とは何か?  今回はそんなお話をしてみたいと思います。一般の人は、ボキャブラリーの多さとか、いろいろな分野の知識などをイメージされるようです。でも、僕はそれほど多くのボキャブラリーを持っていませんし、多方面の知識もありません。威張れることではないのですが、本当のことです。

では、何が必要かというと、コンセプトをつくる力です。近年では多くの人がコンセプトという言葉を使っています。でも、その意味をきちんと理解している人は少ないように思います。中にはテーマを格好よく言い換えた言葉だと思っている人もいるようです。

コンセプト(concept)を辞書で調べてみると「概念。観念」「創造された作品や商品の全体につらぬかれた、骨格となる発想や観点」と出ています。分かるようで分からない説明です。個人的な意見ですが、コンセプトという英語は日本語にしにくい言葉です。

そこで、広告の世界におけるコンセプトということについて説明してみたいと思います。一応僕も現場の人間なので学問的には違うかもしれませんが、これまでの体験を通して得た感想程度にお考えください。

冷蔵庫を例にして考えてみましょう。冷蔵庫とは「内部を冷却し、飲食物を低温で保存する箱形のもの」ということが一般の人の概念、すなわちコンセプトです。これは間違いではないのですが、冷蔵庫に対する見方はこれだけではありません。だいぶ前のことですが、エスキモーに冷蔵庫が爆発的に売れたことがあります。寒い地域で冷蔵庫が売れるなんて嘘みたいな話です。なぜ、エスキモーが冷蔵庫を必要としたのか。それはエスキモーたちが飲食物を冷やすためではなく、凍らせずに保存することができる装置と考えたからです。僕たちは飲食物を冷やす装置と考えますが、コンセプトを変えて考えれば凍らせずに済む装置とも考えられます。エスキモーと冷蔵庫の例は極端ですが、既存のコンセプトを変えることで、さまざまなことが変わっていくものです。

コンセプトを変えれば未来が変わる

昨年、僕はある施設のコンセプトメイクを担当しました。その施設は若いファミリーのためのレジャー施設、あるいは団体向け研修施設という見方をされている所です。僕自身、子どもが小さい時に連れて行ったことがありますし、成長した子どももスポーツや勉強の合宿で利用したことがあります。

以前はこのコンセプトで営業できていましたが、不況や少子化の時代の中では営業的な伸びはありません。先細りしていくだけです。

結論から言うと、私はその施設に対して『がっこう』というコンセプトを付与しました。「遊ぶ場所」というコンセプトとは逆の「学ぶ場所」というコンセプトです。確かに勉強合宿などで利用される施設ではありますが、その施設が持つレジャー施設的側面についても『がっこう』としました。学校は勉強をイメージさせます。しかし、勉強とは本来楽しいものではないかと思ったからです。新しいことを知ったり体験することはわくわくするものです。僕も50代半ばにして、学生時代に嫌いだった歴史に興味を持つようになりました。強制される勉強は嫌なものですが、自ら進んで学習する勉強は楽しいものです。学校、それは楽校でもあるのです。

こうしてコンセプトを変えると、見込み客が変化していきます。これまでは興味・関心を示さなかった層が注目してくれるようになり、マーケット(市場)が拡大します。売上げの伸びが期待できるわけです。  冒頭にコピーライターに必要な力とは、コンセプトメイクの力だと書きましたが、実はコピーライターに限ったことではありません。このコラムをお読みになっている、あなた自身にも必要なことだと思います。

profile



一丸幹雄 
(いちまる・みきお)

昭和30年、大分県杵築市生まれ。

日本大学法学部新聞学科卒業。㈱宣伝会議「コピーライター養成講座」一般コース・専門コース修了後、東京の広告制作会社に勤務。昭和56年にUターン後、大分市の広告代理店、制作会社に勤務。県内各企業の広告や行政の広報、雑誌の取材・執筆を手がける。 現在、フリーランスとして活動中。