僕がつくったコピーの一例
僕のコラム「広告のタネ2」もいよいよ今回で最終回となりました。いつもご愛読いただきありがとうございました。

これまで広告(コピー)の話をさせていただきましたが、僕が書いたコピーは紹介しませんでした。広告業界の事情があったり、僕自身の照れもあったりで、あえて避けてきたのですが、最後なので一つだけ自分の作品を紹介させていただこうと思います。もうかなり昔の作品なので、時効ということで関係各位にはお許しいただきたいと思います。

その広告は、住宅会社のモデルハウスのポスターでした。モデルハウスは一般的にモダンなデザインがウリなのですが、その会社の商品(住宅)は耐久性の高さが特徴で、同社のモデルハウスは築10年を経たものでした。10年間の常設展示では、“いまさら感”は否めません。見た目も競合他社と比べると微妙に時代遅れな感じもあり、リフォームしても果たして新規の来場者が見込めるかどうか疑問視されていました。

結論から言います。僕はこのモデルハウスのポスター用コピーとして、A案・B案のキャッチコピーを書きました。A案は『10歳なんて、まだ子ども。』、B案は『時は、厳しい試験官である。』というものです。このコピーに当時、同僚であったS氏というデザイナーは、次のような写真を選びました。A案には若干ぶかぶかのタキシードを着た子どもの写真を、B案にはアンティーク風の椅子にスポットライトを当てた写真を当ててデザインしました。優秀なS氏のお陰で、当初1案のみの採用であった予定が急遽2案とも採用されることになり、S氏ともども大いに喜んだことを覚えています。

当時、日本の住宅の寿命は30年といわれていました。欧米では50年、100年が当たり前といわれる中(イギリスでは300年以上の住宅も普通に流通しているようです)、築10年なんて子どもみたいなもの。10年経っても古さを感じさせない家であるということをA案で表現しました。半面、10年間太陽光線や風雨にさらされてきたことも事実で、どんな環境の中でも高い住宅性能を維持していることをB案では表現しました。

僕のコピーが良いものか否かは、右上のバックナンバーにある「第2回 良いキャッチ判別法」でご確認ください(笑)。

広告の役割あるいは使命
広告は販売促進の一環である、という考え方があります。これは正解ですが、すべてではありません。では、広告の本来の役割とか使命は何なのでしょうか。

僕はブランドを育てることにあると思っています。近年の流行の言葉でいえば、ブランディングです。よくデザイナーが商品ラベルやパッケージのデザインをやった程度で「新商品のブランディングに参画しました」みたいなことを言いますが、僕が考えるブランディングとは違います。

バックナンバー「第8回 何を言うべきか、それが問題だ」で紹介したフォルクスワーゲンの広告キャンペーンのように、ブランドの価値を向上させる行為こそが本当のブランディングだと思います。

やや古びたモデルハウスを通じて、耐久性の高さを伝えることもブランディングだと思います。今になって悔やまれることは、もっと長期間にわたって、キャンペーン展開を行うべきだったということです。

ブランディングには時間がかかります。僕のやった仕事でいうと、某有名焼酎メーカーの新聞広告(月1回掲載)を約20年間やりました。そのシリーズ広告は、今は別の人にバトンタッチして、現在も進行中なので詳しいことはお話できませんが、長期間継続することで生活者の中にその広告(つまり商品)が一定のイメージで根ざしていくことになると思うのです。

広告とは、ブランディングの重要な手段である、ということをご記憶ください。

profile

一丸幹雄 
(いちまる・みきお)

昭和30年、大分県杵築市生まれ。

日本大学法学部新聞学科卒業。㈱宣伝会議「コピーライター養成講座」一般コース・専門コース修了後、東京の広告制作会社に勤務。昭和56年にUターン後、大分市の広告代理店、制作会社に勤務。県内各企業の広告や行政の広報、雑誌の取材・執筆を手がける。 現在、フリーランスとして活動中。





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