従業員として働いている方なら、一度くらいは上司から投げかけられたことがあるのではないかと想像する言葉、「俺が若かった頃は…」。
このセリフが口から出はじめると大多数の人は、「げ、始まったよまた…」的感情に陥ったのではないかと思います。正直、私が正社員として働いていた時にはそう感じていました。部下としては、「いや、これまでの業界経験とか自分の身になるヒントを少しでも聞かせてほしい」のです。
けれども冗長な話の先に待っているのは武勇伝。純度100%に近い“先輩個人の過去の思い出話だった”とわかれば、その後はどんなに良いエッセンスがトークに差し込まれても、自慢話という先入観からなかなか抜け出せません。上司が気持ちよく自分の話をしていて、それを聞く部下の誰もが気持ちよくなるか?と考えると、答えはきっとNoです。
理由はただひとつ。話し手の自慢や主観を繰り返して、聞く側の人の気持ちを置いてけぼりにしている(ように見える)から。

ただ、当時の上司が、自慢や苦労話をするためだけにいつも誰かをひっつかまえて時間を割いていたとは思えません(いや、「先輩すげーっすよ」と言ってほしい時も、もちろんあったでしょうが)。
それこそ“俺が若かった頃”…数十年前あたりは、商談や折衝といったような社内外の狭いコミュニティ活動を通じて、他社や業界の動き、業績の作り方を経験から吸収するしかありませんでした。
各自が直面した問題に対処し、それを記憶して積み上げたものがスキル・テクニックのようにも思われていました。

「俺が若かった頃は…」に端を発した上司のコンテクスト:文脈背景は、きっと「自分の経験=スキルが、部下や会社を良くすることができるはずだ」という感情と熱意。
自身が失敗や境地を乗り越えてきて、その紆余曲折を後輩や部下に伝えて好転させたいという気持ちで語っていたと思うのです。

今でこそ、知っておくべき社会人の一般常識は、業種業態問わず統一されてきた感がありますが、これは、ネット社会によって一般人の触れる情報量が多くなったことが大きく関係していますね。「社会人としての心得とは」なんて検索すれば、読む気も失せるほどのテキストが一瞬で目の前に現れます。
知識だけでみれば、入社前でも、別に先輩や上司から教わらなくても、ネット上で調べて情報を選べる時代になったわけです。
反面、いろんな意味で競争が激しかった時代を駆け抜けた上司は、情報を共有して協力しながら会社のために頑張るという、今の風潮とまったく異なる働き方を経験してきて、どうかすると、部下との会話の合間に「いや、今そんな時代じゃないんで」なんてバッサリ斬られかねない。

さすれば、今のご時世で先輩や上司の「俺が若かった頃は」トークは、どうすれば効果・意義を持つものになるのか…。

まず思い切って、話の冒頭を「俺が」ではなく「あなた(呼びなれた名)」に変えます。
だまされたと思って「あなたは~」から話を始めてみてください。
続けて、相手のお悩みを引き出すもしくは確認します。
次に、年月かけて積み重ねた俺の経験を、客観的=第三者的に分析する。「これは俺だから乗り切たんやで!」といった気持ちもわからなくはないですが、その土壇場をどうやって乗り越え、結果どんな効果を得たか。主観ではなく、聞いた誰もが納得できるような客観的視点で振り返るのです。世間でよく言う、傾向と対策です。

そしてこの先がキモ。「その話を誰が聞いて、どんなふうに良くなって喜ぶかのエンディング」までを想像すること。この話を聞いて良かった、ためになった!という相手の顔を思い描いてください。これが、ターゲット(=ペルソナ)と効果の設定です。

ポイントとしては、“こんな時に役立つ・効果的だ”と、たとえ話ができるくらい具体的に投げかけましょう。すると聞き手の臨場感が増し、話を自分ごとに置き換えやすくなります。
「俺はこんなんやってあんなんして、ライバル企業のやつをギャフンと言わせたったで!」といったような自分目線一辺倒の話では、相手は聞く耳を持ちません。

また、成功した話ばかりが聞き手のメリットとは限りません。
うまく行かなかったことに悩んだり、落ち込んでいる人には、上司や先輩の具体的な失敗談も効果があります。カッコいい成功体験ばかりでなく、「うまく行かなかったこともあるさ。△△ってことやっちまって。でも○○して××したら上手くいったんだよ」という話を差し込むだけで、聞き手はグワっと共感し、話を聞いて良かった!と思うでしょう。

過去を振り返れるほど長く働いてきた方は、その会社や業界にとって生き字引のような貴重な存在。この語りに、時代や政治、景気の移り変わりによる変貌…といった客観的コンテクストを加えると、もっと聞きたくなるような圧倒的パワーを持った、会社の歴史を物語るオリジナルトークになります。

実は、ここまで話した「話の中身の客観性・ターゲット(ペルソナ)設定・具体的シーンの盛り込み・相手が喜び共感する」というポイントは、セールスライティングの定番の流れとまったく同じなのです。
まずは、誰に届けたいか・誰を納得させたいのかターゲティングし、その人の解決したい悩みを再認識させ、誰もが見て納得できるような客観的視点で事態を分析し、「こうやればいい」と具体的シーンを交えて促してあげる。結果、あなたのお悩みはこんなふうに解決できますよ、と文を着地させるわけです。
“あなた”から文章やトークを始めることで、聞き手は自分に投げかけてくれているという安心感をもって聞き(読み)始めるでしょう。
これが「俺が若かった…」と、“俺”から会話が始まってしまうから、話したいことの真意が相手に伝わりにくくなるのでしょうね。

要は、部下との会話も文章も、聞いて(読んで)もらえるポイントは同じ。自分が気持ちよくなる話(文)は聞かれ(読まれ)ない。相手を気持ち良くしてなんぼ。です。

【今回の脳内解放の法則】
相手を気持ち良くしてなんぼ
部下との会話も文章も、聞いて(読んで)もらえるポイントは同じ。自分が気持ちよくなる話(文)は聞かれ(読まれ)ない。

第3回は、「検索上位表示のためにSEO対策!…の前にやることがあるんだよ!」です。
乞うご期待。

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竹林みか
たけばやし・みか:大分県宇佐市生まれ。
ネコがいて甘いものがあれば、ある程度の苦境を乗り越えられる“主に主婦。ライターとして仕事を請けつつ、家の中では家事最優先。スキマ時間でデスクに向かい、モニターを睨みながら鬼の形相でキーボードを叩く。原稿の構成に多くの時間を費やし、納期ギリギリまで文章をこねくり回して自分を追い詰めるタイプ。
常に最高と最低の状態を想像して、メンタルの疲弊をブロックする習性がある。想像力&妄想癖強め。女性起業家プロジェクトIGCメンバーに加入し、ライター業ほかさまざまな活動を通じて事業経営のカタチを日々勉強中。
関東圏Web制作会社の依頼で執筆を重ね、現在は県内お取引が中心。「人の縁・かかわり」を育みながら、出前講座やフリーランスの働き方を語る講話の依頼をこなす。
平成29年よりスタートした「大分県在宅ワーカー(現:テレワーカー)養成講座」内ライティングコース講師を5期に渡り担当している。
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