※メイン写真 「とよのくに」と聞いて連想するものは…?(撮影:若杉優貴)

大分県に住むみなさんは「とよのくに」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
「とよのくに」といえば、現在では福岡市と大分市・別府市を結ぶ高速バス「とよのくに号」を思い浮かべる人が多いかもしれません。かつて大分市に存在した複合施設「豊の国健康ランド」を連想する人もいるでしょう。
また、大分市では毎年「豊の国YOSAKOIまつり」が開催されているほか、別府市から中津市にかけての地域には国の観光圏整備法に基づく「豊の国千年ロマン観光圏」が形成されています。
こうしたことから、現在では「豊の国」という言葉から「大分市・別府市周辺」をイメージする人や、「豊前・豊後の双方にまたがる地域」を指す呼称と考える人も少なくないと思います。

このように私たち大分県民にとっては耳にする機会も多い「とよのくに」ですが、そもそもとよのくに――「豊の国(豐國)」とは何処のことを指す言葉だったのでしょうか。

もともと「豊の国」は、古墳時代ごろに成立した日本国内の国名のひとつ。そして7世紀の律令国家成立期には、この地域は北部の「豊前国(ぶぜんのくに)」と、南部の「豊後国(ぶんごのくに)」に分割されることになります。現在の福岡県東部と大分県の大部分にあたる広い地域が、かつて「豊の国」と呼ばれていたのです。

「豊」という字からは、実り豊かな土地という印象を受けますが、その由来は「古事記」にまでさかのぼります。
「豊の国」の起源とされるのは、「古事記」の「国産み神話」に登場する神様「豊日別(とよひわけ)」です。伊邪那岐命(イザナギ)と伊邪那美命(イザナミ)が筑紫島、すなわち九州を生んだ際、九州は“複数の顔”を持つ島として描かれており、そのうちのひとつが「豊日別」であったとされ、これが「豊」の名の由来になったと考えられています。

それでは、この地が「豊」と呼ばれたのはなぜでしょうか。8世紀に編纂された「豊後国風土記」には、その由来を伝える逸話が記されています。
それによると、この地域を治めていた菟名手(うなで)という人物が、筑紫島仲津郡で「白鳥が餅となり、さらに芋になった」として、その芋を景行天皇に献上したところ、天皇は、「天の瑞物、地の豊草なり」と喜び、この豊かな土地を「豊国」と名付けた――とされています。

実は、この伝承の舞台となった「仲津郡」は、現在の大分県中津市周辺ではなくて、福岡県行橋市や京都郡周辺にあたる地域です。つまり、「豊の国」という名称の由来となった土地は、大分県内ではなく福岡県東部に存在していたことになります。

その後、7世紀に「豊の国」が「豊前国」と「豊後国」に分かれると、仲津郡には豊前国の国府と国分寺が置かれました。いずれも現在の福岡県京都郡みやこ町(旧豊津町)周辺にあり、「豊の国」の起源の地は豊前地域の政治・経済の中心地として栄えました。
一方、豊後国では、大分郡に国府と国分寺が置かれました。国府は現在の大分市古国府周辺、国分寺は現在のJR豊後国分駅近くにあったとされ、大分の地もまた、政治・文化の中心として発展していきます。
※写真 「豊の国」の由来は福岡県にあった!(撮影:若杉優貴)

現在でも、福岡県の豊前地方には行橋市の「豊日別宮」をはじめ、北九州市周辺や英彦山などに「豊日別」を祀る神社が点在しています。こうした場所を訪れると「豊の国」という言葉が、現在の県境を越えた歴史と文化のつながりのなかで生まれたことを実感できるでしょう。
大分県民にとって、福岡県豊前地方は「北九州方面へ向かう途中に通る地域」という印象が強いかもしれません。しかし、その地には「豊の国」のルーツともいえる歴史の足跡が数多く残されています。
もし福岡県豊前地方を訪れる機会があれば、こうした「豊の国」ゆかりの地に足を運んでみてはいかがでしょうか。

【参考文献】
角川日本地名大辞典編纂委員会編(1980)「角川日本地名大辞典 大分県」角川書店
角川日本地名大辞典編纂委員会編(1988)「角川日本地名大辞典 福岡県」角川書店
奈良県ウェブサイト

※地名の由来には諸説あります。

profile

若杉 優貴
わかすぎ・ゆうき:別府市出身。熊本大学、広島大学、久留米大学を経て2021年博士学位取得。専攻は商業地理学。様々なメディアで街づくりや地理・歴史などに関する記事を執筆している。趣味は商店街とデパートめぐり。
※プロフィール画像はアーティストの三原海氏に描いてもらいました。
【所属】
都市商業研究所 https://toshoken.com/

【主な執筆Web媒体】
『ITメディア』
https://www.itmedia.co.jp/author/248365/
『Merkmal(メルクマール)』
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『アーバンライフ東京』
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『日刊SPA!』
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