寒さ対策にユニクロと東レが共同開発したのが、ヒートテック。
身体から出る水蒸気に反応して寒さを防ぐヒートテックのように、地球は温室効果ガスに反応して年毎に暖かくなっている。その温暖化を阻止するテクノロジーの一つがミートテックと言われている。
スタンフォード大学生化学名誉教授のパトリック・ブラウンは大学の長期休暇を得て、「畜産業を廃止する」ための研究に没頭した。
地球上には約15億頭もの牛がいて、そのほとんどが肉牛や乳牛として飼育されている。
この牛たちが温暖化の大きな原因の一つになっていると、パトリック・ブラウン教授は牛そのものを飼育することを止めさせたかったのだ。
牛は4つの胃をもつのだが、その最も大きい第1胃には1g当たり250億個もの微生物が存在している。この微生物が、干し草や飼料を発酵させて分解しているのだが、その発酵の際に多量の水素が発生する。水素だけならば良いのだが、常在するメタン細菌がこの水素をメタンガスに変換するのだ。
牛がげっぷやおならとして放出するメタンガスの量は、1頭で1日160~320リットル。地上に飼育されている15億頭の牛が1年に排出するメタンガス量を累計すると、年間で東京ドームの容積の約7万杯~14万杯分と巨大な量なのだ。そしてこのメタンガスには、温室効果ガスの代表でもある二酸化炭素の28倍もの温室効果がある。こうして、牛のおならやげっぷが地球温暖化を急激に加速していというわけだ。
パトリック・ブラウン教授は研究の末、最善策として植物性の良質な肉製品を送り出すことを考えたのだ。そしてさらに研究を重ねて、2011年に大豆やビーツなどを組み合わせて牛肉に酷似した植物性の疑似肉を生産するインポッシブル・フーズを設立した。
インポッシブル・バーガーを食べてみると、味も食感も香りも肉そのもので、とても美味しい。しかも、ハンバーガーを割るとビーツの色素が赤味を与えていて、見た目も牛肉。植物油のせいか、食後の満足度も十分だ。
インポッシブル・フーズは、Googleやビル・ゲイツなどから出資を集め、累計調達額は4億(約480億円)ドルにも達し、ビジネスも拡大の一途を遂げている。現在は、アメリカと香港の1,000軒以上のレストランで「インポッシブル・バーガー」を提供している。
同じようにミートテックで注目を集めている企業が、カリフォルニア州エル・セグンドに本部を置くBeyond Meatだ。
Beyond Meatは、2009年にイーサン・ブラウンによって設立され、これまでにビル・ゲイツやクライナー・パーキンス、オブビオス・コーポレーション(現Twitter)他、多くの有名投資家や企業などから資金を調達している。
そして、50カ国以上の国際マーケットとテスコやA&Wカナダなどのスーパーマーケットやファストフードチェーンに製品を提供し2013年より米国で人気のスーパーチェーン、ホールフーズ・マーケットでもパティやソーセージなどが販売されている。
Beyond Meatは、前述のインポッシブル・バーガーと比べても引けを取らないどころか、肉厚で美味しい。実際に調理してみるとフライパンにあふれるジューシーな油や焦げ目なども肉に酷似している。そしてどちらもラードなどの動物性の油を使っていないため、胃にもたれない。肉の価格が安い米国内で比較すると肉よりやや高いが、それでもBeyond Meatのハンバーガーを食べたいほど美味しいのだ。
今や世界中の科学者や先端企業や投資家は、地球温暖化を阻止するテクノロジーの開発に必死に取り組んでいる。
メタンガスの排出量が少ない牛を繁殖させるため、遺伝学的に個体を選別する計画が進行中だったり、特定の海藻を添加することでメタンガスの発生を大幅に軽減する飼料の生産なども進んでいる。また、電気自動車の普及も急速に進み、化石燃料を使わない再生可能エネルギーの普及も進んでいる。パトリック・ブラウン教授が目論んだ畜産業を廃止することは出来なくとも、科学と叡智で地球温暖化対策は着々と進み始めている。
しかし残念ながら、地球温暖化は大きな歯車のようにその動きを緩めず、海水の温度は上がり続けて気象変化に大きな影響と多大な災害をもたらしているのだ。そして永久凍土や北極の氷が予想以上に早く溶け始めている。流氷の上でしか子育てができないアザラシなどはどんどん頭数を減らしている。もちろん、地球温暖化の結果はかわいいアザラシだけの問題だけではなく、海や陸での温度の変化による食物連鎖の崩壊や食料危機などとともに、直接人類の存続を脅かす問題として降り掛かってくる。先ずは、20年後に北極から氷が失くならないように人智を信じながらも、生活の中で無駄に温室効果ガスを出さないように工夫したいものだ。
左がBeyond Meat、右はインポッシブル・バーガー。見かけも味も、とても美味しいハンバーガーだ。
■毎月更新されるこの連載では、今後時代がどう変化するのか、最先端の動向や技術を基盤に深く読み解ければと思う。
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