私は講義を担当している大学で毎年アンケートを採っている。

今年も本年度入学の学生に実施したのだが、確実に毎年変化している項目がある。それは利用しているソーシャルメディアサービスだ。ミクシィやツイッター、フェイズブックなどさまざまなサービスをどの程度利用しているかを訊いている。それにしてもよくもまあ、こんなに新しいサービスが次から次へと出てくるものだ。

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そのなかでここ数年存在感を増したのがライン(LINE)だ。4年前にサービスを開始したLINEは、その翌年から利用する学生が出始め、毎年、その勢いは増している。そして、今年は、いよいよ50名を超える学生すべてがアカウントを持っているという状況になった。そして驚くことに普段利用している連絡方法が、パソコンメールや携帯のメール、ショートメールは一人も利用者がなく、100%LINEだったこと。

まだ18歳、19歳という歳なので友人中心の交友関係なんだろうが、時代の移り変わりを目の当たりにしてしまう。だが、考えてみれば当然と言えば当然だ。流行に敏感な年ごろだ。ファッションや音楽、アイドルに敏感なようにスマートフォンに敏感であってもおかしくない。ちなみにiPhone所有率は約7割。使用するアプリもハヤリによって変わっていく。

このコラムの第3回でLINEの勃興を伝えたが、まさかメールの利用が0になるとは数年前まで思ってもいなかった。もちろん仕事での利用は別だが、この勢いでは業務上でも、その即時性により頻繁なやりとりがLINEに置き換わってもおかしくない。

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インターネットが出現したときから、ネットの世界ではドッグイヤーで変化すると言われてきた。犬の1年は人間の7年に相当するので、1年間で7年分の変化が訪れるということだ。であれば日本でインターネットが普及しはじめた1995年から20年間はそれまでと比べると140年間経っていることになる。

約1世紀半! そう考えると、その間の技術革新にアナログな人間がついていくことはもはや不可能だと思ったほうが自然だ。もちろん人間が便利に使うための技術革新なので、人間が接触するインターフェイスは人にやさしくできている。しかし中身の変化は140年分だ。

モバイルネイティブ世代にとっては、140年分変化したあとの製品やネットサービスがファーストコンタクト。だから迷うことなく使用できる。とはいえモバイルネイティブ世代も歳を重ねていく。いま30歳の若者も20年経てば50歳。その間、ネットの世界では、また140年分の変化が起こる。いくら生まれたときからドッグイヤーに身を置いているといっても彼ら自身もきっと戸惑うことだろう。

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ともあれ、いまとはまったく異なった時間の流れのなかで青春時代を過ごしてきた我々が戸惑うのは仕方のないこと。我々世代は、無理することなく、紙の本でも読んでマイペースで過ごすことが精神衛生上もっとも心地よい時間の流れではなかろうか。もちろん技術の進化は楽しみでもある。それらを楽しむ余裕をもって流行に振り回されず日々過ごしたいと強く思う。この想いを、このコラムを終えるにあたっての最後のメッセージとしたい。

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田代 真人 
(たしろ・まさと)

編集者・ジャーナリスト。(株)メディア・ナレッジ代表。駒沢女子大学、桜美林大学非常勤講師。1986年九州大学卒業後、朝日新聞社、学習研究社、ダイヤモンド社と活躍の場を変え、女性誌からビジネス誌まで幅広く取材・編集。著書に『電子書籍元年』(インプレスジャパン)、構成作に『もし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだら』(日経BP社)がある。