[chapt.01]てんてん(豊後高田市)
日本には、「ゆるキャラ」と呼ばれるキャラクターが溢れています。
2000年代後半に巻き起こったユルキャラブームで、自治体や企業がこぞってキャラクターを制作し、爆発的に増加しました。その後ブームは去り、昨今はコロナでのイベント中止が相次ぐなど、着ぐるみの稼働率も極端に減っています。
しかし、世の中にはまだまだ、私のようなマニアの心をくすぐるキャラクターが数多存在しているのです。そこでこれから1年間、私が出会ってきたユルキャラを通じて、気になることをあれこれ書き綴りたいと思います。

記念すべき第1回は、くにさきの鬼「てんてん」です。
赤鬼がモチーフのてんてんは、豊後高田市の天念寺「修正鬼会」のキャラクター。
国東半島では、鬼は「人々に幸せを届ける良いもの。仏の化身」とされています。そして、そんな良い鬼が主役となる祭りが修正鬼会です。修正鬼会は、六郷満山の寺院に古くから伝わる正月の民族行事で、無病息災、五穀豊穣を祈願します。

「てんてん」の公式プロフィールを見ると、鬼の種類は「災払鬼」で年齢は「1300歳以上!?」とあります。性格は「イタズラ好き」で、好きなものは「お餅(鬼の目覚まし餅)とおにぎり、修行」、嫌いなものは「ひとりじめをする人」。独り占めする人が嫌いな理由は、修正鬼会でまかれる「鬼の目」と呼ばれる縁起物の餅を拾った人が、ちぎって他の人にも分けないといけないことに由来していると推測されます。

弟の名前は「ねんねん」。天念寺だから、「てんてん」と「ねんねん」。まだ、キャラクターとしての存在を確認できませんが、多分荒鬼モチーフで、カラーリングは全身黒だと思います。
ゆるキャラ界ではこういう場合、設定だけで終わってしまうのが常です。ですから、今後「ねんねん」もキャラクター化されるのであれば、たいしたものです(上から目線)。

ちなみにその昔、旧国東町には「くに丸・さき丸」という、同じく国東の修正鬼会の鬼をモデルにした双子の兄弟キャラがいました。その姿は着ぐるみの顔だけで1メートル程あり、なかなかの大迫力。以前取材をした時に、「双子だったので、出産(制作)費用だけで70万円かかった」という、当時の資料を見せてもらいました。着ぐるみに全力でお金を注ぎ込めるなんて、いい時代ですよね。

今年久しぶりに、国東市の岩戸寺で1月28日に行われた修正鬼会に行ってきました。
コロナの影響で講堂での見学ができなかったので、雪が舞う極寒の中、4時間も外に立って講堂で行われる勤行や法舞を見守りました。ある意味修行です。
最後、希望者のみ講堂に入って、鬼の法力を込めた燃え盛る松明で背中を打たれる「御加持」を受けました。もちろん私も打たれてきました。体は芯から冷えきりましたが、今年は元気に過ごせそうです。

修正鬼会は現在、豊後高田市と国東市にある3カ所のお寺でのみ執り行われています。同じ修正鬼会でも、鬼の面もボディスーツのような装束も、お寺によって違います。
天念寺は全身が赤と黒で見分けやすいのですが、岩戸寺の鬼は2体とも体はカーキで、お面も両方ともに黒×赤の似た作りです。災払鬼に角が生えているので、それが見分ける目印になります。
また、岩戸寺と隔年で修正鬼会を行う、国東市の成仏寺の鬼は胴体が肌色っぽく、面の造形が“大味”で、鬼っぽくない“ぽってり”とした印象を受けます(韓国の民芸品のような)。さらに、天念寺は災払鬼と荒鬼、岩戸寺が災払鬼と鎮鬼のペアであるのに対し、成仏寺だけ災払鬼、荒鬼、鎮鬼のトリオ編成と、人数にも違いがあります。

宇佐市の大分県立歴史博物館には、これらの鬼会面のほかに、今はもう修正鬼会を取り行っていない、そのほかのお寺の鬼の面なども展示されています。
個人的には、県内にある施設で一番興奮する場所。おすすめです。

※「ゆるキャラ」はみうらじゅん氏の著作物であるとともに扶桑社およびみうらじゅん氏が所有する登録商標です

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相原 利衣子
あいはら・りえこ:宮崎県都城市出身。大分市在住。株式会社Oulu(オウル)編集者、プロデューサー。大分の出版社で22年雑誌制作に携わり、2021年に編集プロダクション「Oulu」を設立。webメディアや新聞、パンフレットなどの紙媒体から、パッケージやグッズなどのプロダクトデザイン、ラジオ構成作家まで、「丸投げ、よろんで」の精神で活動中。趣味は飲酒、飲食全般で、初対面の人とも陽気に酒を酌み交わせるのが特技です。