女性起業家の創出を目的としたビジネスプランコンテスト「おおいたスタートアップウーマンアワード」。みらいしんきんは当アワードのサポーター企業として事業の実現・成長促進を応援しており、2019~2020年にかけて開催された3回目のアワードでは、ファイナリストとして登壇した女性起業家6名にサポーター賞を贈りました。
3回目のアワードでサポーター賞をお贈りした女性起業家から、保育士の業務をサポートする「Jouet Boite(ジュエ・ボワット)」を起業した田中麻衣さんにお話を訊きました。
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■保育士を支え、子どもたちによりよい保育を提供したい
──田中さんの名刺を拝見すると「保育プランナー」という肩書きなのですね。どのようなサービスを提供するのでしょうか?
田中 「Jouet Boite」は、「子どもの成長につながる保育」と「保育士が無理なく働ける環境」をサポートするサービスです。具体的には、私が各地の保育園を定期的に訪問し、主に若い先生に対して、保育計画の立案方法や実践のサポート、保育玩具の提供などを行いながら、子どもの成長を促すお手伝いをしていきます。また、保育士の世界は意外と閉じられていて、他の保育園の方と交流する機会もあまりありませんから、コミュニケーションの場としてのワークショップなども開催したいと考えています。

──起業に至った理由は何だったのでしょうか?
田中 子どもにとって乳幼児期はとても大切な時期で、その時期に関わる人や物、環境によって成長は大きく変わります。ですが私自身、14年にわたって保育士として仕事をしてきた中で、子どもとの接し方や保育計画の立て方などでずっと悩んできたんですね。現場は慢性的な人材不足で、常に日々の業務に追われていますから、勉強したり、保育士同士で知識を共有したりする時間もつくりにくいんです。でも、そんな状態が続けばだんだんと心と体が持たなくなり、いい保育が提供できなくなります。子どものことは大好きなのに、保育士を辞めるという選択を選ぶ先生も増えていきます。するとますます人材は不足して、現場は疲弊していくでしょう。そんな状況を変えたかったんです。保育士の辛さを知っているからこそ、保育士を支えることで仕事の楽しさを思い出してもらい、子どもたちによりよい保育を提供できる環境を整えられたらと思いました。

──保育士をサポートする仕事がないのなら、自分でつくろうと。
田中 サポートがないわけでもないんです。以前勤めていた保育園には保育コンサルの方がいらっしゃって、私たちの疑問や悩みに応えてくださいました。でも、その方は保育の現場に携わっているわけではないので、すぐに使える実践的なアイデアを教えてくれるわけではなかったんですね。そういった部分にモヤモヤしていたことは事実で、当時から、保育士経験のある人に来てほしいという思いはありました。その点、私だって仕事が辛くて辞めたいと思ったことは何度もありましたが、だからといって手を抜けば子どもたちの成長を止めてしまうという危機感を持って、常に全力で、自分なりに遊びのレパートリーを増やしたり、保育計画の立て方などを学んできたつもりです。そこだけは誰にも負けないという自負があるからこそ、私の得意分野として活かしたいと強く思ったんです。
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■自分自身がキラキラした先生であり続けるために
──「おおいたスタートアップウーマンアワード」を知ったきっかけは?
田中 主人がスタートアップ関連のWebサイトを調べていた時にアワードの情報を見つけてくれました。実は、主人は私の一番の応援者で、彼がいなかったら「Jouet Boite」は生まれていなかったと思います。というのも、まだ私が保育士として働いていた頃、保育園の子どもたちが手づくりのおもちゃで遊んでくれたことがうれしくて、その話をしたことがあったんですね。すると主人が、「そこまで子どものことを考えていろいろしている保育士さんはあんまりいないと思うから、その熱意を活かせば、他の保育士さんを助けられるんじゃない?」と言ってくれて。この一言が起業につながりました。

──ご主人の後押しもあって、起業やアワードにチャレンジしたんですね。
田中 とはいえ、主人は会社員ですし、私もただの保育士なので、何から始めればいいか全然分からなくて。それもあって、アワードに参加すれば、賞なんていただけなくても何か得られるものがあるだろうと、勢いで参加したんです。慣れないパワーポイントを使って、やったことのないプレゼンの練習をして、発表が近づくと「どうしよう」とうろたえて……(苦笑)。まさか、ファイナリストに選ばれるとは思いもしませんでした。

──アワードをご経験されて、いかがでしたか?
田中 当にいい勉強になりました。痛感したのは、「人に伝える難しさ」です。想いの受け取られ方は千差万別ですし、言葉の選び方を間違えると、自分の意図していない形に伝わることだってある。「Jouet Boite」の運営ではさまざまな方と接していく必要がありますから、保育の現場とはまた違ったコミュニケーション方法を学べたことは今後の役に立つと思います。また、「人との出会い」という点でもうれしいことがたくさんありました。サポーター賞をくださったみらい信金さんとの出会いもそうですし、「Jouet Boite」に参加したいとおっしゃってくれた方との出会いもありました。

──それはうれしい出会いですね。
田中 フェルト雑貨をつくるのが得意な保育士さんが、私のプレゼンを見てくれて。アワード後に、「保育玩具づくりのお手伝がしたい」とおっしゃってくれたんです。今では彼女だけでなく、私の友人のお母さんや、結婚後の新居を設計してくれた設計士さんなども加わって、玩具製作チーム「JB工房」を結成しています。皆さんの共通点は子育てを経験されていること。保育士不足が社会問題になっているのもご存知で、「少しでも子どもたちの役に立つのなら」と引き受けてくださいました。今後は、保育士の資格を持っているものの、体力面などの理由から保育の仕事に就くのが難しい「潜在保育士」の方なども気軽にJB工房に参画していただける仕組みがつくれたらと思っています。

──今後の抱負についても教えてください。
田中 「Jouet Boite」は年度始めとなる今年の4月から本格的にサービスを開始する予定なので、まずはそれを軌道に乗せることが直近の目標です。将来的には「Jouet Boite」のWebサイトを成長させ、保育に関するさまざまな情報が得られる「保育ポータル」のような形にすることで、「大分の保育といえば『Jouet Boite』」と言われる存在にしたいです。成功するかは分かりません。ですが、私は保育園を卒園する年長さんに向けて、「失敗しても自分の力になるんだから、興味のあることにチャレンジしてほしい」と伝えて送り出しています。そう話しているにも関わらず、自分が実践できていなかったら胸を張って子どもたちの前に立てませんよね。自分自身がキラキラした先生であり続けるためにも、チャレンジする気持ちを忘れずに持ち続けていたいと思います。

profile

たなか・まい/佐伯市出身。高校卒業後、看護学校に入学したものの、保育士になる夢を叶えるために中退。その後、福岡県の香蘭女子短期大学で保育を学び、大分県に帰郷後は14年にわたって、津久見市や大分市などの保育園で05歳児の担任を経験。2020年、「おおいたスタートアップウーマンアワード」のファイナリストに選出。「Jouet Boite」を開業。
■Jouet Boite
https://jouet-boite.com/