2022年9月2日(金)、大分みらい信用金庫は信金中央金庫との共催事業として取り組んでいた「しんきんイノベーションプロジェクト(SINKIN INNOVATION PROJECT)in別府」の成果発表会を行いました。
このプロジェクトは、「地域企業の経営資源」と「全国の企業の斬新なアイデア・テクノロジー」をマッチングさせることで、新たな価値・ビジネスを生み出すことを目的としています。当日は別府市公会堂から全国に向けて、ライブ配信形式で実施。長野恭紘別府市長、山本眞郎大分みらい信用金庫副理事長、須藤浩信金中央金庫 副理事長も立ち会い、「別府観光」と「伝統産業」をテーマにした2つの成果が発表。当日プレゼンテーションを行った2社の内容をリポートします。

■新たなタクシー観光モデルの創出
株式会社IDM(別府市)×Olive株式会社(愛知県名古屋市)

【登壇者】
株式会社IDM 代表取締役社長 樹下 有斗さん
Olive株式会社 CTO兼COO 竹内 精治さん

【プロジェクトの背景】
コロナ禍以前、大分県ではインバウンド需要の高まりから「観光の多言語化」という課題を抱えていました。その課題に対して、立命館アジア太平洋大学(APU)の卒業生が2017年に創業したソフトウェア開発企業・株式会社IDMは、100ヵ国語以上に翻訳できる観光アプリをレンタルタブレットで配信するサービス「タブシェルジュ」を展開。2019年から、別府市内のタクシー60台以上にタブレットの設置を進めてきました。しかしコロナ禍によりタクシー業界の売上は低下し、現在は大きな転換点を迎えています。
他方、別府は他の温泉郷と比較して面積が非常に広く、点在する観光地間を移動するにはタクシーをはじめとした二次交通の利用が必須と言える状況です。そこにインバウンド需要回復後の可能性を見出したIDMは2022年1月、今回のプロジェクトテーマである「タクシーを起点とした新たな観光モデルの創出」に向けた取り組みをスタートしました。

【設定した課題】
IDMが解決すべき課題として挙げたのは「観光の消費単価が低い」こと。事実、大分県における県外からの観光客の消費単価は九州ワースト1位、全国ワースト11位(2017年)というデータもあります。
IDMの樹下代表取締役社長は「友人に別府を案内したら午前中で2,000円しか使わなかった」と自身の体験を交えつつ、その根底には「温泉や地獄めぐりといった定番スポットは確立されているものの、『プラスワン』となる体験や観光スポットが知られていない」という課題があると仮定。解決に向け、プロジェクトパートナーであるOlive株式会社が持つ「感情可視化技術」に着目しました。

【プロジェクトの概要】
Oliveが持つ感情可視化技術とは、心拍数や呼吸数、体動などの生体データを活用し、対象者がうれしいのか、驚いているのか、それとも怒っているのか、それら抱いている感情を「見える化」するもの。この技術をタブシェルジュと組み合わせ、アンケート以上に客観性の高い情報である感情をデータベース化、利活用するのが狙いです。
具体的には、感情の可視化が可能なタブシェルジュをタクシーに搭載。乗車した観光客の感情の測定を通じて、3つの価値を提供します。
1つ目の価値は、観光客の感情が動く場所をヒートマップ化することで、観光ガイドブックには載っていないけれども実は大きな魅力があるディープな場所に、観光スポットとしての価値を付与できること(新たな観光資源の発掘)。
2つ目の価値は、観光客の感情に合わせて最適な観光スポットをレコメンドできるようになること(観光客への新しい体験の提供)。
そして3つ目の価値は、感情データの分析によるタクシーのサービス改善、付加価値向上です。これら3つの価値を通じて、タクシー観光の活性化や、観光の消費単価向上につながる「プラスワン」の提供を実現し、別府観光が抱える課題を解決していきたいとIDMでは考えています。

【プロジェクトの今後】
IDMが描くこのプロジェクトのゴールは、観光DX時代の新しい観光地ソリューションを共創し、ひいては、それをロールモデルとして、別府から全国の自治体や観光事業者、観光客に向けた新しいサービスの創出につなげること。
発表の最後、樹下代表取締役社長は「日本の、世界のさまざまな場所で感情を揺さぶる、さまざまな方が笑顔になれるイノベーションを別府から起こしていきたい」と抱負を語りました。

【発表後の質疑応答】
Q.感情の可視化は斬新な切り口だが、どのように「感情が揺さぶられる場所」を高付加価値化させていこうと考えているのか?(長野恭紘別府市長)
A.感情のヒートマップ化は、街に染み込み過ぎて地元の人が素通りしてしまうような場所にも高い価値があると示せることが大きな利点。まずはそういった場所を洗い出し、知見を持った皆さんとも協力しながら活用方法を形にしていくことで、付加価値のあるサービスの展開につなげていきたいと考えている。

Q.タクシー乗車中に、夫婦喧嘩などでまったく別の感情がノイズとなって計測されることはないのか? また、乗客の中には自分の感情を知られたくない人もいると思うが、そのあたりはどのように対策するのか?(大分みらい信用金庫 山本眞郎副理事長)
A.ノイズは入るが、相手の感情が見えるという新しい体験をきっかけに、ポジティブなコミュニケーションが育めるのではないかと期待している。また、計測の可否は乗客に選択していただけるので、希望する方にのみサービスを提供したいと考えている。

特別編 : 「しんきんイノベーションプロジェクト in 別府」成果発表会レポ #02へ続く

profile

全国254の信用金庫の中央金融機関である信金中央金庫は、各地の信用金庫と共に、地域の課題解決に従事してきました。人口減少・高齢化のみならず、新型コロナウイルスの感染拡大を始めとした社会を取り巻く環境が大きく変化する中、地域社会が発展していくための変革が求められています。地域を経営基盤とし、地元密着の金融機関として根差した信用金庫にとって、地域課題の解決を通じた顧客企業の成長支援・雇用の創出等の経済の発展に貢献することが重要となっています。本プロジェクトは、信金中央金庫・全国の信用金庫・自治体のネットワーク・アセットを活用しながら、「地域企業の経営資源」と「全国の企業の斬新なアイデア・テクノロジー」を掛け合わせ、地域課題の解決に向けて新たな価値・ビジネスを共創することを目的としています。
(公式サイトより引用)
■しんきんイノベーションプロジェクトin別府
公式サイト https://eiicon.net/about/shinkin-ip2022/