■「シン・コラボ」は崖っぷちアパレル・小売業界を救えるか
 ここ数年以上、コロナ禍に関係なく低迷しているアパレル・小売業界に関する驚きのニュースが飛び込んできました。

■WWD/2022年3月16日
「ギャルソン」「ニューバランス」「UA」がタッグを組む渋谷パルコの限定店 栗野上級顧問も販売スタッフで参加(2022年3月16日/WWD) 



分かりやすく言うと上記3ブランドがポップアップストア自由な背広を渋谷パルコで開催する(3/23~4/12)ということですね。もう少し掘り下げてみます(太字は筆者)。

WWDによると「協業の目的はワークスタイルのカジュアル化やリモートワーク浸透によって進んでいるスーツやジャケット離れに対し、それらをもっと自由に楽しく着ることを目的に実現した。」さらに「スーツやジャケットだけでなく、ファッションそのものにもポジティブなエモーションをもたらすことを目指し、アイテムやスタイリング、ビジュアル、販売スタッフなどさまざまな面で小売の既成概念を超えた提案を試みる。」

わずか400字弱の記事から、今のアパレル・小売業界の測り知れない課題と微かな光明が見えてきます。

先ずは「闇」と言っても言い過ぎではない課題について。
今回のニュースのポイントは「協業」俗にいう「コラボレーション」という手法ですが、もちろん今に始まったことではありません。いわゆる「異業種との商品や新規サービス開発の取組み」の総称ですが、アパレル業界で真っ先に思い浮かぶのが「BEAMS」です。日本のファッションのレベルを押し上げたセレクトショップ御三家(他に「SHIPS」「UNITED ARROWS」)の中でもいち早く、異業種との商品開発を進めたのがBEAMSです。特に印象的だったのは1998年「BEAMS WORKS」というプロジェクトを立ち上げ、アパレルメーカーが当時最もデザイン的にイケてた通信機器メーカー「MOTOROLA」とのコラボレーションを発表したこと。まさに意外性やブランドイメージのギャップを最大活用した「異業種コラボ」の幕開けでした。
ちなみに仕掛け人の元BEAMS梶原由景氏は大分県出身!

時は流れ、とにかくあらゆる業界に、猫も杓子もコラボ旋風が吹き荒れました。
なかでも「コラボ活」に躍起になっていたのがアパレル業界。特に驚かされたのが、あの「ルイ・ヴィトン×村上隆」という世界の頂上ブランドと当時世界のアートシーンから注目を集め始めた日本人現代美術作家のコラボ。意外性を遥かに超えた協業でした。以降ヴィトンは「草間彌生」にも触手を伸ばし、さらには「藤原ヒロシ」とも手を組んで日本におけるヴィトン市場をガッチリ抑え込んだわけです。
この流れは、最近では「GUCCI×ドラえもん」コレクションや「LOEWE×となりのトトロ」コレクションといった、もはやコラボレーションの意味そのものを覆すような展開を見せています。
余談ですが、冒頭の3者コラボも、GUCCI、LOEWEもすべてメイン舞台が2019年リニューアルオープンした「渋谷パルコ」でした。

話を冒頭の3ブランド協業に戻します。
元々ギャルソンは2000年代初めから、意外ともいえる相手とのコラボを展開しています。超メジャーな「ローリングストーンズ」や「ビートルズ」等デザイナー川久保玲氏と同世代アーティストとの取組みや、記憶に新しいのはファストファッション「H&M」原宿店オープンでのコラボ限定商品展開でした。一見不釣り合いとも言えるブランド同士のコラボは想定外の盛り上がりを見せたばかりか、以降のアパレルのコラボの在り方の方向性を示したとも言えます。

そんなコラボ先駆者/エヴァンジェリスト(?)のギャルソンがwithコロナ真っ只中の2022年に「小売の既成概念を超える」べく選んだ相手が、「UA」「ニューバランス」…。
誰の意思が一番強く働いたかは知る由もありませんが、アパレル氷河期の時代に、あまりの「既視感」に襲われたのは内実を知る業界関係者だけでしょうか? 「これまでのコラボの変遷を知らない消費者がターゲットだから」という安易な発想ではないだろうし、もちろんこのプロジェクトに関わっている人達の熱い想いが伝わってこないわけではありません。でも何かが「違う」印象はぬぐい切れません。これが当事者の言う「小売の既成概念を超えた提案」なのでしょうか?

かつて圧倒的に優位だった小売側の情報や知識はネットやSNSの進化と共に消費者側に移り、販売員の丁寧過ぎる接客は、今では極力非対面・非接触での購買環境が望まれるようになるなど、長い間積み上げてきた小売ノウハウの優位性という既成概念が崩れています。
今回の試みが本当に「超える」ものなのか、いわゆる「原点回帰」に過ぎないものなのか、そしてアパレル・小売業界に光が射すきっかけになりうるのかは、消費者の判断に委ねられることだと思います。

はたして「シン・コラボ」は2020年代のアパレル・小売業界を救えるのか…。
ちなみにギャルソン川久保玲と並ぶ日本が誇る世界的デザイナー山本耀司のブランド「Y’s」の2022年S/Sのコラボ相手は「NEW ERA」。直近では高級時計ブランド「OMEGA」がカジュアな「SWATCH」とのコラボを発表したところ、主要販売店舗に想定を遥かに超えたお客様が来店して、急遽発売延期の事態になったことが記憶に新しいところです。

やはりアパレル・小売業界の「with CORONA ERA」サバイバル戦略としての「シン・コラボ」の迷走は、もうしばらく続きそうです。

 

profile

柴田廣次
しばた・ひろつぐ/1960年、福島県郡山市生まれ。筑波大学卒業後、1983年株式会社パルコ入社。2004年〜2007年には大分パルコ店長を経験。2018年2月に独立し「Long Distance Love 合同会社」を設立。
■Long Distance Love合同会社
https://longdistancelove.jp
■「TOKYO LAB 2019」@渋谷クラブクアトロ
Long Distance Loveプロデュースイベント
https://youtu.be/_w89k-PK_O0
■コラムインコラム「ホントは教えたくない1冊
前回に引き続き、今月も「どうしても教えたい1冊」のご紹介です。ジェームス・W・ヤングなる人の「アイデアのつくり方」という、直球ど真ん中ストライクなタイトルの本。最近流行りのお手軽新規事業指南本かと思うかもしれませんが、巻頭の著者による「日本の読者のみなさんに」の最後の日付をみると、なんと「1961年7月」。書籍巻末ページのクレジットには「1988年4月初版/2019年7月初版第74刷」…そう、超ロングラン&ベストセラー本なんです。しかも実物はハードカバーで新書変型判サイズ、まえがき&本文約60ページ、解説&あとがき約40ページという超コンパクトな中身。ちなみに帯には「60分で読めるけど、一生あなたを話さない本」のコピーが。そうなんです、まさに私がパルコ入社して5年目くらいに出会い、35年くらい経った今でも、こうして皆さんに紹介したい本なんです。大げさじゃなく、私の独創的思考回路≒アイデアのつくり方は、前々回に紹介したじょうずなワニのつかまえ方と本書ともう一冊(次回紹介予定)で出来ていると言っても過言ではありません。60ページに凝縮されたこの本の凄さを実感していただくためにも、ぜひ書店もしくはamazonで即入手して下さい!ちょっとだけネタばらしをさせていただくと、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでない」…以上!