■「渋谷≫SHIBUYA」の唯一のレガシーはMUSIC BAR
これまで、本コラムで「再開発」という大手術に失敗した渋谷の「ディストピアSHIBUYA化」を幾度となく取り上げてきました(「#2 整形手術に失敗した街…渋谷」など)。
とはいえ社会人として多くの時間を渋谷で過ごしてきた自分にとって普遍的な愛情を持っていることも確か。なので今回は個人的趣味丸出しで、ケンタウロス(?)的渋谷/SHIBUYA の数少ない魅力「MUSIC BAR」について。

「MUSIC BAR」に、たいそうな定義は無いと思いますが「アナログレコードやCDで良い音楽を掛けながらお酒を提供する店」…なんて、東京・渋谷に限らず日本全国どこにでもありそうですが、「店主のこだわりのコレクションがすごい!」「国内外からファンが集まる!」「とっておきの(お酒以外の)フードメニューがある!」等々となると、グッと絞られてきそうです。
このような「良い音楽と良いお酒(&料理)を提供するバー」文化が1970年代から脈々と受け継がれているのが渋谷(≠SHIBUYA)なんです。なかでも個人的に渋谷レガシーと断言する名店3店を、惜しみなく紹介したいと思います。

先ずは「渋谷百軒店(ひゃっけんだな)」という、平成以降生まれにはまったく馴染みのない地名の奥にあるロックバー「B.Y.G」。
オープンはなんとあのウッドストックが開催された1969年。HPトップに書かれた「LEGENDARY MUSIC BAR」が全てを物語っています。自分がバンド活動に明け暮れていた大学時代から40年以上も通っていますが、ライヴハウス楽屋のように(有名無名問わず)アーティストのサインで埋め尽くされた壁の横には、色褪せたニール・ヤングのポスターが貼られ、地下のトイレには70年代のロックスターの写真やレコードジャケットが隙間なく飾られていて、まさに「Timeless & Priceless 」な空間が今も残されています。


次は渋谷明治通り沿いの雑居ビル地下に秘かに佇むGRANDFATHER’S
扉を開けると、まさに時空を超えた異空間が広がります。今どき珍しい「喫煙可能店」の匂いを気にしながら中に入ると、店の雰囲気とはギャップがある「A.O.R(いまならYACHT ROCK)」と呼ばれるちょっとアダルトな「ベストヒットU.S.A」的ヒット曲がガンガン流れる、これまた「時空超え系」MUSIC BAR。ただしお客様のリクエストの合間に流れる70年代のR&Bや(たぶんマスターお気に入りの)スティーリー・ダン等の名盤を大音量で聴く快感はたまりません。
そしてこの店の特筆すべきは「酒のアテ(ツマミ)」の美味さ。なかでも「あたりめ」と名付けられた唯一無二のメニューはオーダーマスト&リピート必至の逸品です。

3店舗目は開店約10年の比較的新しい、その名もど真ん中なBAR MUSIC
渋谷駅から徒歩0分、でも圧倒的に分かりにくい雑居ビルの5階にありながら(特にCORONNA前は)海外からのお客様(ファン)も駆けつけるというTOKYOを代表するMUSIC BARです。
前の2店舗に比べ「ロック色はほぼゼロ」「リクエストには応じない」等、最初はちょっと入りにくい雰囲気を漂わせていますが、自らDJやCDをプロデュースする店主の音楽への愛情(こだわり)は幅広い音楽愛好家に絶大な支持を受けています。
オススメは限定10個の「コーヒープリン(店主のご実家が広島の珈琲店とのことで、もちろんコーヒーも美味しいです)」と「オレンジモヒート」。ちなみに私は毎回この2品以外頼みません!

どうやら海外には「MUSIC BAR」という業態は無いらしく(著作権等の問題が微妙に絡んでいるのかもしれませんが…)、日本独自の音楽文化のようです。
渋谷にはかつてアナログレコード(輸入盤中心)や中古レコードショップが密集し、当時はNYマンハッタンより多かったという話もありました。海外のDJ達も来日したら必ず渋谷に来てDIGしていったそうです。そのような環境が渋谷「MUSIC BAR」の発展と進化につながっているかもしれません。今回ご紹介した3店ともコロナ禍にあってクラウドファンディング等によってお店と文化を守り続ける努力は素晴らしいと思います。

他にも渋谷ライヴハウスのラスボス「クラブクアトロ」が経営するQUATTRO LABO

FREE SOULという独自のジャンルで一世を風靡し、今も活躍中の音楽プロデューサー橋本徹氏(「橋下」ではありません)が手掛ける渋谷の名所カフェ・アプレミディ。世界的に著名なDJ/プロデューサー沖野修也氏のTHE ROOM COFFEE&BAR等々、渋谷が「SHIBUYA」になっても魅力を放ち続けるレガシー「MUSIC BAR」は、永遠に不滅です!

profile

柴田廣次
しばた・ひろつぐ/1960年、福島県郡山市生まれ。筑波大学卒業後、1983年株式会社パルコ入社。2004年〜2007年には大分パルコ店長を経験。2018年2月に独立し「Long Distance Love 合同会社」を設立。
■Long Distance Love合同会社
https://longdistancelove.jp
■「TOKYO LAB 2019」@渋谷クラブクアトロ
Long Distance Loveプロデュースイベント
https://youtu.be/_w89k-PK_O0
■コラムインコラム「ホントは教えたくない1冊
「復活、ホントは教えたくない1冊!」というわけで、今月は元に戻って教えたくない1冊「東京のすべて365」を紹介します。このタイトルにピンときた方、そうです、あの「1日1日ページ」シリーズです。これまでに「1日1ページ、読むだけで身につく世界(日本、からだ)の教養○○編」等多数出版されていますが、今回はぐっと絞って「東京」で攻めてきました。では、なぜホントは教えたくないのか?それは東京(浅草)在住30余年の自分としては、ある意味東京自慢のネタ帳なので、うっかり&じっくり読み込まれてしまうと立場が無くなるんです。せこい人間かとお思いでしょうが…とはいえ、実はさほど役に立たそうにないのも事実でして。内容は「歴史(月曜)」から始まって「自然(火曜)」「物語(水曜)」「商業・娯楽(木曜)」「暮らし・文化(金曜)」「人物(土曜)」「まち(日曜)」という、まるでNHKラジオ講座のテキストかオープンキャンパスのプログラムみたいなので、いわゆる東京観光ガイド的な要素は皆無です。でも毎朝入浴時に1ページ、声を出して読んでいると、意外な面白さに気づく時があります。学校で大雑把に教わった歴史や地理の知識が繋がっていく瞬間がとってもスリリングだったりするわけです。「古墳」「貝塚」「土器」「更級日記」の知識等、脳内の記憶からとっくに抹消されていましたが、いまではこれらの遺跡を訪ねてみようかなという気持ちも湧いてきます。最近のウクライナとロシアの戦争等、歴史や宗教・地政学などが複雑に絡み合っている世界情勢を、日本という国のことを多角的な視点で振り返りながら未来のことを考える必要があるなあとつくづく思います。日本の中枢である「東京」について雑学的知識でもいいから、今からでもいいから貪欲に吸収したいという高尚な志を持って、毎日お風呂で音読しています。
ちなみにお風呂でこの厚さ(約400頁)の本を読んでいると、ごくたまに一部水没させてしまい、読了後は本がしわくちゃになり、BOOK OFF等にも引き取ってもらえないリスクがあることを付け加えておきます。