■シン有楽町で逢いましょう⁉
「Long Distance Love ~東京より熱烈な愛を込めて~」も丸2年、22回目を迎えました。スタート時はコロナ禍の真っ只中で、出張や旅行等の長距離移動が大幅に制限されていたこともあって、このコラムではなるべく今の東京の面白さや変化を一般のメディアやSNS(の投稿)とはちょっと違う視点で紹介してきました。
でも自分なりに振り返ってみると、東京特に自分が慣れ親しんできた渋谷が“ミライの街づくり”という名の大規模再開発の大波に飲み込まれて、これまで築いてきた豊かな表情や繊細な物語を失っていく過程を目の当たりにすることで、ついつい否定的・批判的な内容の文章が増えてきたような気がします(少しだけ反省…)。

「with コロナの生活」が見え始めてきた2022年最後のコラムも、残念ながら先の見えない東京の街という文化が壊されていく実態のレポートになってしまいました。
今回の標的(?)有楽町はかつては駅前やJR高架下に屋台や小さい居酒屋がひしめき合い、その一方で数寄屋橋交差点の先には高級ブティックや料亭、クラブ等が密集する“世界のGINZA”という大海原が広がり、サラリーマンの行く手を阻んでいました。

ちょっと余談ですが、現ルミネ有楽町は初めての駅ビル以外の出店ということで話題になりました。実は当時(前職時代)パルコも出店に名乗りを上げていました。結局、ルミネに譲る(?)カタチになりましたが、その理由の一つが「銀座(パルコ)」を名乗れなかったことです。千葉にあるディズニーランドが東京を名乗る一方、道ひとつ隔てただけなのに「銀座」ブランドの使用を認められなかったことで出店を諦めた決断は、今となっては正しかった気もします。
過去のコラム(#19 経年劣化する銀座 〜今や100均ショップの聖地!!〜)にも書きましたが、コロナ禍の銀座はいまや百均ショップの聖地と化し、インバウンド(特に中国人)による特需も無くなり、UNIQLO無印良品の旗艦店が集結する今の銀座に、かつての華やかさは感じられません。

■新しいまちづくりのフォーメーション「大丸有」とは!?
その一方でじわりじわりと変貌を遂げつつあるのが大丸有と呼ばれるエリアです。
まだまだ馴染みのない呼称のようですが「手町」「の内」そして「楽町」の大規模再開発を手掛ける三菱地所界隈で盛んに発信されている「シンまちづくり」のトレンドワードです。
3エリアの開発の詳細はHP等に譲りますが、特にあの有楽町がどんな街に変貌(変異)するのかは、小さな期待と大きな不安が入り交じって大変興味があります。最近盛んに発信されているSNSやプレスリリース等の情報を斜め読みしてみると、銀座への憧れや未練と決別して、大手町や(特に)丸の内にすり寄って、さらには渋谷駅周辺~原宿の若者文化をスタイルだけ取り込もうとする「アブナイ再開発」に突き進んでいる印象を受けます。

大丸有まちづくり協議会」(発足30周年!)が発行する街づくり情報誌ON!で様々な業界の新旧リーダーたちが語る「スマートシティ」「人と緑がつながるまち」「アート×サスティナブル」と言ったコンセプトがのんびりと語られる街に(明るいだけではない)力強い未来を感じることが出来るのか大いに不安になりました。
例えば「有楽町改造計画」(by 三菱地所)の前哨戦として解体予定のビルに作られた「謎の空間」の正体として紹介されているのが、「アイディアをおもいつき、カタチに」する場有楽町『SAAI』wonder working community」(見え方としてはシェアオフィス、らしい)。特に目玉はバー変態という、SAAIメンバー(利用者)の希望者が交代でチーママ、チーパパを務める「自分から繋がりに行く場」というコンセプトらしい。

そしてカタチになったアイディアが試され、磨かれる場がmicro FOOD& IDEA MARKET。どう見ても渋谷や原宿にあるフツーのカフェにしか見えないけれど…まだ本番前であることを差し引いても、既視感満載の(プレ)プロジェクトであることは一目瞭然です。

他にも解体前の商業ビルの1階にアーティストの工房やギャラリーを展開するソノアイダ#有楽町等々、個人的な趣味嗜好はさておいても、いわゆるかつての大手広告代理店、今はイケてるクリエイティヴエージェンシーがコンセプトやネーミングファーストでじっくり考えた的な印象はぬぐえません。

かつて有楽町そごうの開店コマーシャルソングとして発表された「有楽町で逢いましょう」(byフランク永井)は高度成長期を支えた猛烈サラリーマンの聖地・有楽町に集う人達をひとつにまとめた聖歌でした。
前述した「どこの街にもあるような、ありふれた景色のカフェ」の店内に「シン有楽町で逢いましょう!」のキャッチフレーズが、Xmasで満員の若者たちの何人の心に響いたのか…その答えは何年先までしか、わからないと思います。

profile

柴田廣次
しばた・ひろつぐ/1960年、福島県郡山市生まれ。筑波大学卒業後、1983年株式会社パルコ入社。2004年〜2007年には大分パルコ店長を経験。2018年2月に独立し「Long Distance Love 合同会社」を設立。
■Long Distance Love合同会社
https://longdistancelove.jp
■コラムインコラム
2022
年最も腑に落ちた本⁉
古市憲寿社会学者/1985年生)、成田悠輔経済学者/1986年生)、落合陽一研究者/1987年生)…初めてメディア(主にテレビ)で観た時の印象はとにかく悪かった記憶があるこの3人。話し方も、考え方(思想)も、ルックス(?)もすべてが苦手でした。ところが最近は彼らが出演するワイドショーや著作物を追っかけるほどの気になる存在≒いわゆるファンになっていました。その理由はさておき、なかでも落合陽一は(いくら筑波大学の遥か下の後輩とは言え)特にあのヨージ・ヤマモトを纏った2022年代のマッドサイエンティスト的振る舞いが鼻について仕方なかったのですが、たった1回の講演会(トークショー「宇宙世紀とサステナビリティ」*対談形式でお相手はバンダイナムコエンターテインメント代表取締役社長・宮河恭夫氏)を偶然聴いて、自分の彼に対する評価が180度変わりました。対談の内容はここでは触れませんが(CHANGE TO HOPE 2022参照)、とにかく発想の独自性・尖鋭性と雄弁かつユーモア溢れる(たびたびスベる)語り口に、わずか40分で心をわしづかみにされました。
その勢いで読んだ本が忘れる読書。これには、さらにヤラれました。相変わらず鼻につく表現や自慢話満載ではありますが、随所にいわゆる「目から鱗」的な「デジタル時代の真の教養を身につける本の読み方」が満載。
特に第2章「忘れるために、本を読む」と第7章「読書で自分の『熱』を探せ」は、この手の本なのに、感心どころか感動さえ覚えてしまいました。自分自身、ここ最近たくさん本は読むもののなかなか頭に入らないことが多くなり、いまさらながら読書法に悩み、そもそも何で読書なんかするんだろう、なんて感じていた矢先に出会ったこの本…大げさじゃなくて「救世主」でした。自分もここ10年以上ルーティンにしている「朝30分のお風呂読書」を薦めている記述にニヤリとしたり、「本の内容は覚えるな、むしろ忘れよう(本全体の10%くらいが頭に残るくらいでちょうど良い)」「覚えることより忘れる能力が大切」等々は今の自分にとってまさに「金言至言」のオンパレード。
「ネット時代だからこそ(紙の)本を読むことが大切」的な薄っぺらいメッセージとは一線を画す、刺激に満ちた読書指南書です。
PS 本文の中でサラリと書かれていた「僕の父親は落合信彦」に腰が抜けるほど驚きました(養子説もあるようですが…)。