なぜ再開発担当者は“横丁路地裏が好きなのか。

2023年3月13日、国のお墨付きが出たにもかかわらず、東京都内の「マスクのある風景」はほとんど変わらなかった気がします。しかし異常気象とも言える暖かさで桜が一気に開花し、大慌てした春休み中の学生や観光客でコロナ禍前を凌ぐ勢いで都内観光地がごった返す中、いつの間にか(?)東京駅前に東京ミッドタウン八重洲がオープンしました。コロナ禍前夜の2018年には目と鼻の先の東京ミッドタウン日比谷がオープンしたばかりなのに…。

最近の商業施設のメインテナント(コンテンツ)はとにかくグルメファースト! かつてのアパレル(ハイブランドや人気セレクトショップ)は話題にすらならず、行列のできる人気グルメ店の誘致に躍起になっているようです。
競合激化のグルメゾーン差別化の重要ポイントは「施設全体コンセプトとの乖離(ギャップ)」。その結果、皮肉にもキーワードはどこもかしこも「横丁(感覚)」や「路地裏(の佇まい)」と似たり寄ったり。ご多聞に漏れず東京ミッドタウン八重洲キモ入りのグルメゾーンはヤエパブ(ヤエスパブリック)を構成する「ロジウラ」と、立飲みスポット「ALL STANDS」等を下層階に、上層階には超ラグジュアリーなブルガリホテルを配した、まさに最新商業施設全体イメージをギャップ感で攪拌した“やっぱり”なコンセプトです。
とはいえ店舗や共用空間の意匠(デザイン、演出)は2023年型なので、ホンモノの横丁や路地裏には似ても似つかない代物。それにしてもこのハンパ無い既視感は何なのでしょうか。
そう、2020年のコロナ禍ど真ん中にオープンした渋谷・ミヤシタパークのちょっとお化粧直し程度の違いしか無いことが、トレンドに敏感な賢い消費者にはすぐバレてしまいます。東京と渋谷の違いはあれど、プレスリリース資料の謳い文句の違いはあれど、親(三井不動産グループ)が同じなのだから、子どもが似るのは当たり前ですが。
いわゆるホンモノの「横丁」と言えば、現存する新宿思い出横丁恋文横丁(現・渋谷ヤマダ電機LABI付近)、JR有楽町駅ガード下(現在ほぼ解体中等が代表的ですが、(擬似横丁文化発祥の地と言われるのが恵比寿横丁(2008年開店)。その後コンセプトが独り歩きして、東京のいたるところにお洒落な「横丁」「路地裏」が雨後のタケノコのように出現しました。
まるごとにっぽん(浅草)の起死回生の一手も浅草横丁&大型ユニクロであり、超鳴り物でオープンした 東急歌舞伎町タワーにも予想通り歌舞伎町横丁が登場しました(運営は恵比寿横丁の成功に味をしめた同じフードプロデュース企業)。ちなみにタワー上層階にはラグジュアリーホテルが入居という、東京ミッドタウン八重洲と狙いは変わらないのもご愛嬌です。
ここ最近の東京の大規模再開発は、表向きには「街づくり」「地域との共存」を標榜していますが、現状ははホンモノの「横丁」「路地裏」コミュニティ(文化)の破壊につながっていることも確かです。

インバウンドが本格復活したTOKYOで、「ロジウラ」と「路地裏」、「ヨコチョー」と「横丁」の違いをぜひ体験して下さい。
どちらが好きか、どちらも好きか(その逆も)、決めるのは個人の自由ですから。

profile

柴田廣次
しばた・ひろつぐ/1960年、福島県郡山市生まれ。筑波大学卒業後、1983年株式会社パルコ入社。2004年〜2007年には大分パルコ店長を経験。2018年2月に独立し「Long Distance Love 合同会社」を設立。
■Long Distance Love合同会社
https://longdistancelove.jp
■コラムインコラム
これからの人生のバイブルにしたい本

巨星堕つ。

坂本龍一氏(以下「教授」)に初めてお会いした(仕事をご一緒した)のは1984年だから、もう40年近く前のことになります。教授が初めて出版した書籍「長電話」(作曲家高橋悠治氏との共著/本本堂)のプロモーションを渋谷パルコで実施した時、担当者としてお会いした入社2年目の私でした。
今手元にある「音楽と生命」(坂本龍一/福岡伸一)の巻末には「2023年3月29日 第1刷発行」と記されているので、日付的には教授が亡くなったと伝えられた3月28日の翌日ということになります。内容自体は2016年6月にNHKで放送された両者の対談をもとに大幅に加筆修正されたものですが、あらためて活字になった二人の会話の深さ、鋭さ、優しさにただただ驚愕するばかりです。音楽家(文系)と生物学者(理系)が、「世界をどのように記述するか」「ロゴスとピュシスの対立」等を、世界各地で20年近く対話してきたという本書は、不確実性が増すばかりの現実(地球や人間、生物全体)と未来に立ち向かう次世代に読み継がれるべき測り知れない価値を持つのではないかと思います。
いつになく真面目な紹介文になってしまいましたが、1回読んだだけの理解では到底伝えきれないという自戒の念を込めて、あえておススメさせていただきます。
追記:現在は入手困難のようですが「新潮2023.2」に掲載された教授最後の連載「未来に遺すもの/ぼくはあと何回、満月を見るだろう」も必読です(涙腺決壊必至)!