「東京・亀有」と聞いて、東京人に限らず誰もが思い浮かべるのが「こち亀」でしょう。
まれに、町中華(特に餃子)マニアは「ホワイト餃子」と答えるかもしれません。
東京葛飾区内の「亀有」は人口約27,000人の街ですが、駅に降り立った瞬間、こち亀ファミリーが総出でお迎え!と言うほどの圧は感じませんが、「亀有≒こち亀&両さん」は住民の総意であることは一目瞭然。
たとえば同じ葛飾区の「柴又」といえば、即「寅さん」と相場が決まっています。亀有とほぼ同規模23,000人ですが、街が醸し出すいわゆる昭和の下町感は圧倒的に柴又です。
しかしながら不思議な共通点も。
コロナ禍以降に久しぶりに訪れた筆者(浅草在住34余年)の個人的な肌感覚ではありますが、とにかくインバウンドが少ない。交通の便や、立派な名所が少ない等いろいろな理由はあると思いますが、やはり「両さん」「寅さん」の昭和を代表する2大コンテンツではさすがに弱い。いわゆる今さら「聖地巡礼」になりにくいのではと推察するのですが。
そんな中、驚くべき施設が亀有駅から徒歩約15分(ホワイト餃子の真向かい)の高架下施設「ぽちかめ」に出現しました。その名は「SKAC(SKWAT KAMEARIART CENTRE)」。
「SKWAT」とは「社会の空間と文化の境界線に挑戦して、人々をひとつにすることを目指す芸術家と思想家の集団」とのこと。若干頭デッカチな印象もありますが、15年前くらいから活発化してきたJR東日本による「高架下ビジネスの行方」/e-DOYOU#4の進化版であることは確かです。
プロジェクトの中心が設計・デザイン事務所「DAIKEI MILLS」(代表 中村圭吾氏)ということもあり、やはり亀有エリア、特に当該施設の周辺では、ピンクの建物のホワイト餃子以上に突出して浮いた感じがします。
外見は高架下ということもあり、そんなに目新しさも無いいわゆる「コンクリ打ちっ放し」ですが、内装やディスプレイ・サイン・照明等の演出に、決して「未来」ではなく「今」を感じます。
壁一面の「THE MUSEUM IS NOT ENOUGH」という電飾サインの圧が強烈な洋書専門店「twelvebooks」 、廃材が一見乱雑に積み上げられて「THE TOILET TOKYO PARIS」と書かれたトイレ案内の電飾サインもSNS映えすること間違いなし。「SUN」「MOON」「COSMIC」「LOVE」等ユニークなジャンル分けされたアナログレコード店「VDS」、空っぽの巨大倉庫のような薄暗いカフェ「TAWKS」等、ここは葛飾区亀有であることをすっかり忘れてしまう異空間です。
訪れたのは平日の午後ですが、想像した以上にお客さんが入っていた印象もありますが、この施設・空間がどんな意味を持って、誰にどう機能するのかという疑問が沸々と湧いてきたのも事実です。
SNS等のサイバー空間に繋がりを求める孤独な現代人をリアルな空間「庭の話」(by 宇野常寛)に引き戻す場として、東京・亀有「高架下」が新しいモデルを提示したのか、彼ら「SKWAT」の試みの真価が問われるのはこれからだと思います。
とはいえインバウンドの波に押し流されず、ほどほどの下町感溢れる商店街や新しい施設とのハイブリット感を味わうにはうってつけの「亀有」の今をぜひ体験してみてはいかがでしょうか。