第27回 孫武の考え
【問い】
今からおよそ2,500年前の春秋戦国時代。周王朝の衰退をチャンスと捉えた王様達が500年近く戦を繰り広げます。その頃にまとめられた孫武の戦法は、今の世の中でどのように生かされるでしょうか。
【答え】
ポイントは「戦わずして勝つ」を徹底的に解釈して備えることです。
企業として倒産しない準備をして、ここぞというチャンスが来た時に一気に攻勢できる体制を得るのです。
【解説】
2度目の緊急事態宣言。
多くの方が感じているように、はじめてのときと感じが違います。この約1年間に準備をして対策を講じ、状況が悪くなる中、自分たちがくたばらないように備えていた方にとっては、まさにそんな感じだと思います。
だからと言って、ハッピーでルンルンとは当然言えません。しかし、後1年位でワクチンが普及し来年の初め頃より状況が戻るでしょう。そのときに備えて今は体力の温存とその瞬間に資本を突っ込めるように準備を続けています。
一方で、昨年のデジャブのように同じことを繰り返している企業も散見できます。国は医師が足りない、病床が不足していると。
確かに努力はしていると思いますが、根本的に専門の部隊をつくり、医療経験者を自衛隊等の感染症専門部隊の力を借りて訓練し、対応できる仕組みを作るあるいは準備をする。重傷者に対し「エクモ」などのハード投資とエリアの計画をすすめる等々。
でも現実は、なんだかあんまり変わらない1年が過ぎています。1年経過して業界によっては売上が8割蒸発していますので対応が相当に大変だと思いますが、業界平均では3割の減少です。期間を予測し、覚悟を決めれば、このギャップは1年あれば体制を整え派手に勝てはしませんが、絶対に負けない仕組みを作ることは出来るでしょう。
今からおよそ2,500年前、春秋戦国時代、当時の周王朝の衰退をチャンスと捉えた王様達が、土地や人民、そして命の取り合いを続けました。その間500年、戦国の世を繰り返します。
そしてリードを勝ち得たのが秦の始皇帝です。そんな時代に編み出された戦法に孫子の兵法がありました。孫武という、「戦わずして勝つ」という言葉が有名な方が整理した戦法です。
戦争について語られた本ですので、今の経営や人生哲学に直接的に影響を与えるものではないですが、その話の中の例えや事例、考え方は多くの部分で参考になります。孫子の考え方の究極は「勝利を得てから戦いを始める」ことが大事で、多くは「負けてから戦いを始める」と言います。
時々子供と一緒に、スリーカードポーカーを遊びます。勝負するポイントは負けないことです。
ルールの説明は省きますが、自分が勝ちそうに無いときは早めに降りて、とにかく負けないようにします。ゲームをしていると、どうしても勝利を意識して良いカードが来るかもしれないと期待しますが、スリーカードポーカーでは、そのような期待を捨て、潔く勝負を降りることで負けないようにすることで、誰かが負けるのです。そして結果的に自分たちが生き残る。
「戦わずして勝つ」のポイントは、そのように負けない状態をつくり、ここぞというチャンスが来た時に一気に攻勢できる体制を得ておくことです。
通常の勝負事において、力関係がどっこいどっこいの場合、大抵は相手のミスが因果で勝敗が決まります。ライバルの隙をついて形勢逆転というパターンです。そのために勝因よりも敗因にフォーカスし、自分たちが原因で負けた部分を徹底解析して、次は負けないように日頃から準備をするのです。
去年の今頃、中国武漢で始まったcovid-19に対して、対岸の火事程度で見ていたのが1月とか2月。春節を過ぎた頃からヤバイと思い始めました。3月にはビジネスモデルを変えようと心に決め、既に動いていました。だからといって一気に逆転ということは無いですが、少なくとも数年は死なない、つまり潰れない体制をつくることに徹しました。
そして1年間、事業モデルを変え、習慣を変え、出来なかったことも諦めて、手を動かして自分達や仲間と一緒に戦えるようにひたむきに取り組みます。8月、9月。世の中の気が緩んでいるときも決して歩みを止めず、とにかく負けない体制を構築しました。
緊急事態宣言2回目。
派手さはありませんが、その準備がボディーブローのように効いています。未だその次期はきていませんが、相手や業界が疲弊するタイミングが来れば、一気に攻め込む準備も整えています。
孫子は「状況を分析して戦いの次期を見極めろ」と言います。
自分たちのリソースの使い方も状況に応じて選択肢を持つことが大切だといいます。だからといって、組織全体の志や目的、取り組みは歩調を合わせ、準備を怠らないで日々を過ごす。
これらが負けない組織の作り方だと。
経験の無いものは、強いものが、あるいは普通に見える人が、まさかそのような訓練や経験値を持っているなんて創造もしません。出来る人や結果を出す人の努力は目に見えないからです。
戦でも然りで、負けないためには、相手を欺くことを推奨します。ハッタリをかますのではなく、意図を読まれないように取組むのです。
もちろん、我々は敵がいるわけではなく、いるとしたら自分たちの慢心でしょう。
派手さは無くとも、自分たちが信じた大義を果たすために、自由に取り組める時間とお金を手にしながらも、着実にすすめていく。
この1年、同じような感覚で取組む組織は、次の10年は死なないでしょうね。