[第42回 日本の少子化問題]
【問い】
少子高齢化が進めば日本の影響は具体的にどうなるのでしょう。また、現在の取組では少子化を止めることが難しい理由は何故でしょう。
【方向性】
少子化の理由のひとつに、一定層の若者が将来の不安から結婚に否定的な背景があります。現在、国が進める少子化対策は結婚した層を対象にした支援なので、取り組みとしては不足するのです。
【解説】
《少子化の現状》
2021年の出生数は、ついに85万人を割り込みました。かつて2019年の出生数が90万人を下回り、「86万人ショック」として騒がれましたがコロナにより少子化が加速しています。
■21年の出生数、過去最少84万人 コロナ禍で少子化加速(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA251RA0V20C22A2000000/
2020年1月から10月の妊娠届け出数は約72.7件で前年比5.1%の減少です。この背景はコロナで妊娠・出産を控える動きが目立っていることです。里帰り出産や両親の協力が得にくい昨今に加え、対象層の経済状況が悪化していると考えられます。
実は少子化対策については、コロナ前から国としての取組は進んでいません。特に未婚・晩婚化は未解決で、出産や育児支援制度の不備や有配偶者出生率の低下なども進展がありません。
以下、動向をまとめたものです。
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[未婚・晩婚化]
● 男性の生涯未婚率は2%、女性は14.9%
● 1972年が婚姻件数のピークで約110万組、2019年は約60万組
● 初婚年齢は上昇し、夫が7歳、妻が29.1歳
[出産・育児支援制度の不備]
● 待機児童問題として、2020年4月時点で約2万人
● 不妊治療の所得制限や非嫡出子の問題などは未解決
[有配偶者出生率の低下]
● 配偶者がいる女性の出生率も0台を下回り2015年には1.94に低下
● 男性の長時間労働が依然として慣行され育児参加率が低い
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《少子化の影響》
少子高齢化は字のごとく、少子化と高齢化が同時に進む現象です。経済を支える生産年齢人口(15歳から64歳)が減少し、その予備軍である年少人口(14歳以下)は激減、加えて高齢者(65歳以上)が激増する世の中に突入しています。
1980年代、高齢者は1割以下、生産年齢人口は6割、年少人口も4割近くいました。労働力も十分で次の担い手も確保され経済にも活気があった時代です。
しかし現在その比率は逆転、4対5対1となっています。
少子高齢化のインパクトを改めて考えてみます。
生産年齢人口と年少人口が減少することで、国内市場が縮小し、労働供給力も減少します。従来以上に現役世代による社会保障の負担が高まり結果的に経済成長率が確実にダウンし、国の税収も比例して減少します。
上記の経済的なインパクトは同時に、社会的なインパクトを引き起こします。
例えば消滅する可能性が高い都市が増加することです。そして高齢化比率の高まりにより地域社会の活力が低下。児童数が激減することで更に学校の統廃合が進み、地方の行政サービスも今よりも厳しい水準にまで落ち込むでしょう。医療、警察、消防、自衛隊の絶対数も減り、若手の割合が減少することを鑑みると、社会インフラの維持や更新は従来と異なる発想で対応しなければ機能しなくなることが推測できます。
少子高齢化による人口減少は、経済状況と社会状況のインパクトから日本の国力そのものが低下することを意味し、国の機能維持が危うくなる極めて深刻な問題なのです。
《少子化の問題点》
国立社会保障・人口問題研究所や厚生労働省の調査によると1970年以降、結婚した人は概ね2人の子どもを出産しています。しかし日本全体で捉えると1970年代に女性が子供を産む数は概ね2人だったのが現在は1.4人になっています。このことから未婚率の増加が出生率低下の要因になっていると考えることができます。
BBT大学総合研究所の調査によれば、欧米と日本・東アジアでは、子どもを持つに至るまでの経路が異なるため根本的な少子化対策が異なります。
日本・東アジアは、成人しても親と同居する傾向が強く、欧米のようにそのこと自体は問題視されません。親と同居することで得られる経済合理性は高く、晩婚化の原因にもなっています。子どもを生む時期も結婚してからが一般的であり、結果的に子どもを産む時期がずれ、時には機会を逸失する場合も考えられます。
一方で、欧米は成人と同時に親元から離れ、独立して生計を立てるのが一般です。日本や東アジアのように親元で暮らし続けると変人扱いされるのです。そのため一人暮らしを始めますが、一人よりもパートナーと同棲することで互いの経済合理性が高まります。また結婚する前に子どもを産むことも問題視されることもありません。
このように考えた場合、欧米では結婚前に既に子どもがいるため、仕事と子育ての両立の支援そのものの意味が出てきます。
しかし日本・東アジアでは、仕事と子育ての両立の支援に加えて、結婚そのものを促す取り組みをしなければ意味が薄れてくるのです。
山田昌弘著書の「日本の少子化対策はなぜ失敗したか」を参考に、近年の晩婚化、未婚化の主な要因を経済不安、出会い減少、交際意欲の減少の3つの視点で整理します。
近年、特に男性の経済力が低下しています。直近10年で30代の給与は20万円以上減少、非正規社員は年収300万円の壁があり、若年男性の経済格差が拡大しています。また日本では、男性が経済的に扶養する意識が依然として強く、結果的に若者が結婚に対して消極的になっているのです。
経済的に不安定な若者は親との同居を選択し、パートナーとの出会いの場を自ら少なくしています。また若年正社員は、働かない中高年管理者が増大する中、過大な労働を強いられ、結果的に残業過多に陥ります。非正規社員の場合は流動性が高いため、社内サークルや組織の出ごとなどに参加して異性と親しくなる機会も減少しています。今後のテレワークが普及すれば、更に昔と比較して出会いの場が激減するのです。
「類は友を呼ぶ」ではないのですが、同世代や先輩社員に対して、恋愛や結婚の楽しい、幸せなロールモデルも少なくなり、いつしか恋愛や結婚をコストと捉えてしまいます。恋愛するのが面倒で、恋愛は時間とお金の無駄だという意識が芽生え、自分の立場を精一杯させている現状があるのです。
《少子化の方向性》
これまで考察した論点です。
2019年に初めて年間の出生数が90万人を割り「86万人ショック」を経験。この傾向はコロナと共に加速し、経済的インパクトと社会的インパクトをもたらし、国力低下に直接影響します。少子化対策は欧米型の仕事と子育ての両立を支援しているが、日本は若年層の低賃金化、雇用の不安定化、親との同居などの因果を見直すことが急務なのです。
逆に考えると、現在中流以上の生活を送る見通しが立ち、そもそも親の生活水準が中流以上の家庭で育った若者は安定した企業の正社員や公務員や専門職に就いているため、結婚に対しては従来通りです。子どもを2人以上産むことも推定されています。
少子化対策でフォーカスすべきターゲット層は、中流以上の家庭で育ったが、将来自分が中流以上の生活を送る見通しが立たない若者なのです。
このターゲット層に対しての具体策の方向性は、「若者の将来に対しての不安を取り除く」根本的な取り組みです。そのうえで、この層が安心して結婚が出来ると思わせることこそ、少子化に歯止めを止める取り組みになると思います。
現在の日本の支援は、既に結婚した層に対しての子育て支援と仕事の両立であり、根本的な対策としては不足しているのです。