[第53回 デジタルを活用したZ世代対策法とは

【問い】
Z世代に対し、デジタルを活用した良いアプローチ方法はありますか?

【方向性】
時代背景を考慮しながらデジタルとアナログの特徴を理解すると、育成手法やコミュニケーションのとり方が理解できます。基本的にはれまでの世代と大きく異なることを理解することです。

【解説】
■デジタルのメリットとデメリット
デジタルは、情報を記号で表し、電子的に処理でき、コピペ(コピー&ペースト)可能で、伝送も瞬時に行えます。今の世の中はデジタル抜きに企業活動を行うことは難しいものです。
しかしZ世代はデジタル前提で育っており、アナログを知りません。
この点の理解を深めるため、デジタルのメリットとデメリットを列挙してみましょう。

まずメリットは「効率」「共有」「柔軟」「便利」といったキーワードがあげられます。
デジタルによって人手や時間のコストが削減でき、効率化につながりました。たとえば紙ベースの書類管理が電子管理に移行したことで、書類の保管、管理、検索も劇的に変化したといえます。
また、クラウドやオンライン共有ツールを活用することで、場所や時間に関係なくデータ共有ができるようになりました。結果、オフィスやチーム間のコミュニケーションが変化しました。
さらにデータは複製・編集・変更が可能であり、行動の検証をアルゴリズムで行うことができるため、改善やブラッシュアップのスピードが爆速化しました。
ネットショップやデジタル決済は、従来では考えられない変化をもたらしています。

一方、デメリットは「安全」「情報過多」「人間関係の変化」が浮かんできます。
デジタル情報はハッカーなどのサイバー攻撃の対象になり、セキュリティ対策は必須です。
また、情報が大量に瞬時に入手できるため、その選択や信憑性の評価が難しくなりました。
さらにデジタルを活用したコミュニケーションは、リアルの人間との対人能力を劣化させる傾向が強くなっています。新しいテクノロジーに馴染めない人は、デジタル化することでハンディキャプを感じ、人間関係の劣化を加速させています。

■デメリットの事例あれこれ
デジタルの活用で対人能力が低下する現象は、経営者にとって深刻です。そのイメージを共有するために、いくつか事例を示してみましょう。

コロナ禍に伴い定着したテレワークの増加は、直接的、人間的な関係構築の機会が減少させてしまいました。この時期に組織に初めて参画したメンバーは、その被害をもろに受けています。直接対面することなく仕事をする必要が増し、かえって効率が下がってしまい、職場の人間関係が劣化したと報告するレポートが増大しているのです。

海外に目を向けると、まず中国ではオンライン教育が急速に普及したのですが、教師と生徒の対面によるコミュニケーションが減少し、生徒の対人能力や社交性が著しく低下しているそうです。
韓国では、スマホの利用が急速に普及した結果、若者たちのスマホ依存症が問題視されています。24時間365日、スマホを手放すことができず、睡眠不足やストレスなどの健康問題まで被害が及んでいます。
スマホ依存症は、米国の若者でも観察されています。スマホを手放すことができず、社交不安障害や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの精神的な問題を引き起こす要因にもなっているというのです。

■Z世代の育成環境
1997年から2012年頃までの間に生まれた年齢層は、「Z世代」と称されています。現在、10代後半から20代前半の若者たちが該当します。
Z世代は、物心がついた時からデジタルが当たり前の世界で育っています。SNSやネット検索は生活の一部であり、思春期にはスマホやタブレット端末が生活のデフォルトとなりました。情報はネットから集め、ネット上では自分の考えを表現し、多様な価値観を尊重する傾向を持つ。

一方で、一般社会での経験値は浅く、当然ながらリアルな問題解決能力や対面でのコミュニケーション能力は低い傾向にあります。
Z世代自身も問題意識は持っているが、その改善方法が分からないでいます。ネット情報に依存する一方で、情報選別の力も欠けており、発言もコピペがベースで自分の頭を使うことが苦手になっているのです。

ただし、アナログ社会からデジタル社会へトランスフォーメーションする際は、Z世代の活躍が期待されます。
企業や教育現場では、彼らが持つデジタル技術を活用し、働き方や学び方を変革することが重要視されます。社会全体の多様性を尊重し、Z世代の能力を最大限引き出すことができれば、今後の事業環境にも耐えうる組織を作れるのではないでしょうか。

■Z世代を鑑みた教育
企業がZ世代を教育する際、以下の「フリップラーニング」「プロジェクトベースドラーニング」「アクティブラーニング」がポイントになってきます。

[フリップラーニング]
自宅や職場で事前学習を行い、研修ではより実践的な学びを与える手法です。
デジタル教材や動画を用いたオンライン学習を事前に済ませ、研修ではグループワークやディスカッションを中心に設計し、対話的な学びを促すことアナログでしか得られないエッセンスを取り入れます。

[プロジェクトベースド ラーニング]
現実の問題解決に取り組みます。
従来のOJTに近いのですが、問題の設定から課題の特定、実際の解決策の立案や実行までを一気に体験させるのです。その際、問題解決の進め方はベテランが示し、解決する中でのデジタルツールの活用はZ世代を中心にフォローしてもらうのがポイントとなります。ベテランのアナログ的志向と、Z世代のデジタル的志向を融合することで双方の理解が深まり、デジタルとアナログの良い部分を互いに吸収することになります。

[アクティブラーニング]
Z世代が自発的に課題や問題に取り組み、主体的に学びを進める方法です。
デジタル化が遅れている企業は、初めの一歩が踏み出せないものです。アナログにどっぷり浸かった中間管理職や部長層に「デジタルアレルギー」がはびこっているからです。
そこで入社歴の浅いZ世代を中心にしたチームを組み、プロジェクトリーダーは社長が務めます。そこでは些細なことでもいいので、全社を改善するテーマを半年程度で繰り返し、Z世代を交えて提言してもらい、その実行を実際に行う経験を積ませるのです。デジタル化の支援過程でZ世代の力を借り、徐々に自発的に考えるように仕向けていくのです。

これにより、Z世代が弱いとされるアナログのスキルや、世代間を超えたリアルなコミュニケーション体験、そして協調性や問題解決能力の習得ができます。
加えて、デジタルに苦手な上の世代も、Z世代の生態系を体験し、理解することで、「一緒に仕事ができる」という感覚を芽生えさせられるのです。

■企業の変革
中堅企業から大企業の人事担当者は、Z世代の離職率の高さに悩みを持っています。
しかし、Z世代が離職する理由は、ある程度特定されています。「ワークライフバランス」「職場環境のストレス」「人間関係」「仕事内容のマッチング不良」「自己成長の機会の欠如」などです。

従来の新入社員は、組織に入って5年、10年の期間をかけてジワジワとアップデートするのが常でした。
ところがZ世代は、あるゆる知識をコピペして瞬時に共有する世界が当たり前で、昭和世代が培ってきた忍耐力など微塵もありません。
しかし、Z世代の行動様式を受け入れることで、アナログ企業はデジタル企業にシフトしはじめるのです。

ワークライフバランスの改善は、企業のみならず国家単位での課題になっています。柔軟な働き方と従業員の生活の充実は今後外せません。職場のストレスや人間関係の悪さは、上記で提言した3つのラーニングを取り入れることで改善されるでしょう。
それらを取り組む中でZ世代との関係構築を深め、双方のゴールを共有することで仕事のマッチングを実現させていきます。そこからキャリアを考える機会や、Z世代が検索しても知り得ないであろう、自社の「魅力」を共有させていくのです。

Z世代の離職率が低い企業は、今後10年を生き抜く企業として、そこそこアップデートした体制を整えた企業とも考えられます。
経営者として、今の世代で会社を精算するか、現体制を独自のポジションと主張して生き残る術を探るか、あるいはZ世代の考えを組織にインストールしてガラガラポンするか、決断を迫られています。
当然、ここは選択の問題であり、正しいか間違いであるかはありません。
経営者自身が、自由に判断すべきなのです。

profile

早嶋 聡史 氏
(はやしま・さとし)
株式会社ビズナビ&カンパニー 代表取締役社長
株式会社ビザイン 代表取締役パートナー
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事
Parris daCosta Hayashima k.k. Director & Co-founder

長崎県立長崎北高等学校、九州大学情報工学部機械システム工学科、オーストラリアボンド大学経営学修士課程修了(MBA)。
横河電機株式会社の研究開発部門(R&D)にて産業用ネットワークの研究に従事。MBA取得後、海外マーケティング部にて同社主要製品の海外市場におけるブランド戦略・中期経営計画策定に参画。B2Bブランディングの先駆けとして後に知られるようになったVigilanceという力強いブランドキャンペーンを実施。退職後、株式会社ビズナビ&カンパニーを設立。戦略立案を軸に中小企業の意思決定支援業務を行う。また成長戦略や撤退戦略の手法として中小企業にもM&Aの手法が重要になることを見越し小規模のM&Aに特化した株式会社ビザインを設立。更に、M&Aの普及活動とM&Aアドバイザーの育成を目的に一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立。近年、アナログの世界に傾倒すること、価値を見直すことをテーマに、自ら高級スイス時計のブランドであるパリス・ダコスタ・ハヤシマを設立する現在は、売上規模数十億前後の成長意欲のある経営者と対話と通じた独自のコンサルティング手法を展開。経営者の頭と心のモヤモヤをスッキリさせ方向性を明確にすることを主な生業とする。
【著書・関連図書】
できる人の実践ロジカルシンキング(日経BPムック)
営業マネジャーの教科書(総合法令出版)
ドラッカーが教える実践マーケティング戦略(総合法令出版)
ドラッカーが教える問題解決のエッセンス(総合法令出版)
頭のモヤモヤをスッキリさせる思考術(総合法令出版)
実践『ジョブ理論』(総合法令出版)
この1冊でわかる! M&A実務のプロセスとポイント(中央経済社)
【関連URL】
■YouTube「早嶋聡史のチャンネル」
https://www.youtube.com/user/satoshihayashima/videos
■早嶋聡史の戦略立案コンサルティング
http://www.biznavi.co.jp/consulting/strategy_planning

■早嶋聡史の事業実践塾
http://www.biznavi.co.jp/businessschool

■中小企業のM&Aビザイン
http://www.bizign.jp
■月々1万円で学ぶ未来社長塾
http://www.mirai-boss.com/
■独・英・日の時計好きが高じて立ち上げたスイス時計ブランド
https://www.parris-dacosta-hayashima.com/