今回は人との関係から出て来た歌を取り上げました。
いずれも、今の我われにも心あたりがある、あるあるの感覚の歌たちです。
関東から九州は筑紫に派遣された防人(さきもり)たちの歌から四首を選びました。

【和歌のスタイルで表現してみた】

Usage #90
人は人、己はおのれの法則

人ごとに立場が違えば思いも違う それを噛みしめ心乱すな

[元歌]
人に行くは誰が背と問ふ人を 見るがともしさ物思もせず 万4425
訳:「こんど防人に行く人は誰のご主人かしら」と言っている人を見ると、悩みもなくてお気楽なことだと思います。

[解説]
これは防人の妻の歌。「誰かい? どこのご主人が行くんかい?」と噂話を耳にしたときの当事者の気持ちが分かります。
作者は伝わっていません。でも、歌の由来は伝わっています。755年、奈良時代。貴族の安曇三国(あずみ の みくに ? – ?)が、武蔵国で集めた防人を引率して筑紫に行く途中、大伴家持に進上した防人たちの歌のひとつです。

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Usage #91
先延ばしにするな後悔するぞ、の法則

目の前の忙しさに逃げ込んで 大事なことを先延ばしする性の悲しさ

[元歌]
防人に立たむ騒きに家の妹が 業るべきことを言はず来ぬかも 万4364
訳:防人に指名されて、出かける準備でバタバタしてしまった。不在の間、妻にしてもらいたいことをちゃんと伝えてないままなんだよな。

[解説]
本当はちゃんと話をしたかったのに別れるのが辛いせいか、妻とまともな会話ができなかった男の歌。作者は若舎人部広足(わかとねりべ の ひろたり ? – ?)。茨城出身の防人。

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Usage #92
自分の気持ちは素直に表すがヨシ、の法則

他人のせいにすな 気持ちを率直に言えないひねくれ屋め

[元歌]
我が妻はいたく恋ひらし飲む水に 影さへ見えてよに忘られず 万4322
訳:妻は私を恋しがっているらしいな。水を飲もうと思ったら水に妻の顔が映ったぞ。

[解説]
素直に、妻が恋しい、と言えば良いのに。そう言わず、妻が自分に会いたがっていると言ってしまうやつ……。ま、気持ちは分からんでもないけど。作者は若倭部身麻呂(わかやまとべ の みまろ ? – ?)で、静岡出身の事務担当の防人。

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Usage #93
決意表明は益荒男(ますらを)ぶりで、の法則

人ごとに立場が違えば思いも違う それを噛みしめ心乱すな

[元歌]
今日よりは顧みなくて大君の 醜(しこ)のみ楯と出で立つ我は 万4373
訳:さあ今日からは家のことはさて置いて、我は大君の強い楯として務めを果たすのだ。

[解説]
決意表明をするときのモデルになる歌。新しい局面に向かい、それまでと気持ちを切り替える男のシンプルで力強い言葉。作者は今奉部与曽布(いままつりべ の よそふ ? – ?)。栃木出身の防人の「火長」。課長じゃないんだ(笑)。防人10人のチームを1火と言い、その長のこと。

profile

安部 博文
あべ・ひろふみ:1953年、大分市生まれ。大分大学教育学部物理学科卒業、師匠は田村洋彦先生(作曲家)。由布院温泉亀の井別荘天井桟敷レジデント弾き語リスト(自称)。大分大学で第1号の経済学博士、指導教員は薄上二郎先生(現青山学院大学経営学部教授)。国立大学法人電気通信大学客員教授。電通大認定ベンチャーNPO法人uecサポート理事長。
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