今回も防人の歌です。防人は敵の侵入を防ぐのが役目。敵はいつ襲ってくるか分からないので朝廷はコストをかけて壱岐・対馬・筑紫に防人を配備していました。
万葉集に出て来る防人は関東地域の出身者たち。時は 755年 。一度、難波に集まって、それから船で筑紫に向かった。
この流れを仕切っていたのが兵部少輔の大伴家持。グループのリーダーに命じて各人に歌を詠ませ、集まった作品から秀作をセレクトして万葉集に収めたわけだ。役人・歌人・編集人の三役をひとりで担っただけでなく、なんといっても防人に寄せる心情が良い。そして防人につく男たちや家族の言葉が良い。
なので二回連続で防人の歌です。

【和歌のスタイルで表現してみた】

Usage #110
今になって悔やむ気持ち

[元歌]
水鳥の立ちの急ぎに父母に 物言ず来にて今ぞ悔しき 万4337

水鳥が飛び立つように慌ただしく出発して、父母に挨拶しなかったのが今になって悔やまれる。

[解説]
作者は有度部牛麻呂(うとべ の うしまろ ? – ?)。駿河国の出身。招集から出発までそんなに短いの?と言いたくなるほど、急な話だったのだろう。日常からいきなり非日常に放り込まれ、なんだかんだの後でやっと一息ついたとき、「そういえば」と気づく様子が伝わってくる。今だと「窓を閉めたっけ」「ガスの元を締めたっけ」あたりかな(笑)。

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Usage #111
立場は違えど幸いを祈る

[元歌]
今替る新防人が船出する 海原の上に波なきさそね 万4335

今、交代のために新しい防人たちが船出するところだ。海路が穏やかであるよう祈る。

[解説]
作者は大伴家持。防人を見る家持の心根が伝わる。つまり「仕事だから防人を招集して筑紫に送っている、それだけのこと」的ではなく、タレントを大事にするマネージャーのような姿勢を感じる。組織の仕事は人の顔が見えにくくなりがち。でも755年の防人を送り出すプロジェクトでは家持はとても人間だった。

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Usage #112
悪い人はここにも

[元歌]
ふたほがみ悪しけ人なりあたゆまひ 我がする時に防人にさす 万4382

ふたほがみは、性根が悪い村長だ。急病で苦しんでいる私に防人に行けと命じたのだから。

[解説]
作者は大伴部広成(おおともべ の ひろなり ? – ?)下野国那須郡の出身。ふたほがみと広成はコミュニケーションがうまくいってない、と分かる歌。だからといって広成が言うように、ふたほがみは悪しき人だったのか? それは分からん。それは放っておくとして、広成は、上の句でポイントを主張し下の句で理由を説明している。主張+理由の型を使うと説得力があるなーと勉強になります。

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Usage #113
父親⇒息子への心

[元歌]
家にして恋ひつつあらずは 汝が佩ける太刀になりても斎ひてしかも 万4347

家にいて心配するより、息子の太刀になって一緒にいてやりたい。

[解説]
作者はこの次の歌の作者、日下部三中の父 (くさかべ の みなかがちち ? – ?)。息子を思う父親の気持ちの歌。なのだが、息子のほうはと言えば、またちょっと違うのだなあ(笑)。次の歌でお確かめください。

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Usage #114
息子⇒母親の心

[元歌]
たらちねの母を別れてまこと我れ 旅の仮廬に安く寝むかも 万4348

母親と別れてしまう私が旅先で安眠できるのか心配です。

[解説]
作者は日下部三中(くさかべ の みなか ? – ?)。上総国の出身。前の歌の答えがこれ。息子のほうは父親ではなく母親を詠っているのでした。父の気持ちはどこへやら 、やれやれ(笑)。

profile

安部 博文
あべ・ひろふみ:1953年、大分市生まれ。大分大学教育学部物理学科卒業、師匠は田村洋彦先生(作曲家)。由布院温泉亀の井別荘天井桟敷レジデント弾き語リスト(自称)。大分大学で第1号の経済学博士、指導教員は薄上二郎先生(現青山学院大学経営学部教授)。電通大認定ベンチャーNPO法人uecサポート理事長。電通大プログラミング教室を運営。
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