2025年も、ざわざわと慌ただしく過ぎ去ろうとしていますが、このコラムはひっそりと何事も無かったように終わろうと思います。
4年間、48回に渡って続いたことに我ながら驚くとともに、毎回の駄文にお付き合いいただいたことに感謝いたします。

大分との繋がりは2004年に(今は亡き)大分パルコの店長として赴任してから約3年間、自由奔放に動き回り、今でも自分史的に「最高のモテキ」(#1)と実感しているほど大分ライフを満喫しました。そして「かぼす大使」という名誉ある称号をいただき、東京へ戻り、PARCO三越伊勢丹HDSLong Distance Love合同会社という人生において、いつも大分のことを忘れることなく日々過ごしてきました。いわゆる「遠距離恋愛」相手に送り続けたのが当コラム「東京より熱烈な愛を込めて」です。
スタート当初は東京のトレンドをエンタメ/カルチャー、グルメ、ファッション、まちづくりという視点で自由に書かせていただきました。やがてコロナ禍後の東京の大きな変化、特に大規模再開発への憂慮、インバウンド急増による街の変化等を中心に、時には過激な論調で投稿しました(時に担当編集者からの苦言をいただきながら…)。
最後に47回分のコラムを振返ってみると、特に言いたかったことは3つです。

[1]「東京ローカル」について
コラム終盤では「亀有」(#42)「錦糸町」(#45)「西荻窪」(#44)等まさにローカルな佇まいを保っているエリアを取り上げました。海外の著名メディアでも「学芸大学」「神保町」(#47)が「世界で最もクールな街」といった評価を受け、いきなりインバウンドの波が押し寄せると言った「グローバルな東京ローカル」といったユニークな現象が今なお継続して起きています。

[2]意外な才能・ジャンルが、世界基準で開花
アニメやシティポップから映画等のコンテンツが世界的評価と人気を獲得する中、個人的には「JAZZ」という海外の音楽文化を日本人の若手アーティストが「beyond JAZZ」「Not Only JAZZ」的な視点で進化させていること(#46)も伝えたかったことのひとつです。

[3]SHIBUYAを目指す渋谷の不確実な未来
たぶん一番伝えたかったことがこのテーマだと思います。約30年間PARCOにお世話になって、渋谷(内3年は大分から世の中を見てきた自分には、今の渋谷の「100年に一度の大開発」はどの世代にも、何も残さない破壊活動としか理解できません。もちろん開発のど真ん中で今なお日々、昼夜問わず努力されている方々に敬意を表しながらも、渋谷の高層ビル群を見上げながら、これからの渋谷、ひいては東京、そして日本の未来に不安以上の感情を持っている方は少なくないと思います。

そういうわけで私からのラブレターはこれで終わりです。長い間お付き合いありがとうございました。

2025年12月25日
Long Distance Love 合同会社/代表社員
柴田 廣次

PS
これまでのコラムはほぼ「COFFEE BAR 桟敷」(浅草)という場所で書いています。今でも毎週3回程度(おもに月・水・金の午前中)は通っています。もし東京出張(旅行)の際、このコラムの続編にご興味のある方は、ふらっと覗いてみて下さい。

profile

柴田廣次
しばた・ひろつぐ/1960年、福島県郡山市生まれ。筑波大学を卒業後、1983年株式会社パルコ入社。2004年〜2007年には大分パルコ店長を経験。2018年2月に独立し「Long Distance Love 合同会社」を設立。
■Long Distance Love合同会社
https://longdistancelove.jp
■コラムインコラム
SHIBUYA
が渋谷に回帰するための処方箋⁉
個人的かつ些細な話ですが、2025年元旦に立てた目標のひとつに「今年は本を買わない!」がありました。正確には「読書を止めるのではなく、これまでに買っても読んでない本を確実に読み切ること!」という誓いでした。
そんな1年も終わり、振り返るとやはり(昨年以上に)本を買っていました。エッセイ、小説、評論、哲学、ビジネス、健康、一般教養等々多岐に渡る本を買い、読破率(?)ほぼ50%。またしても翌年に持ち越される事態に陥っているわけです。とはいえ新しい本の匂いに、ついついニヤッとしながらも「いったいこの本は誰が読むんだろう?」という素朴な疑問を感じることが多くなりました。
最後に紹介する渋谷半世紀 都市×カルチャー×未来(晶文社)が、まさにそれ。約30年間、渋谷(パルコ)に仕事のすべてを教えられ、このコラム【本編】でも渋谷愛を保ち続けながら「SHIBUYAディストピア化」に警鐘を鳴らし続けてきた自分にとって、この本に書かれたメッセージの多くは「誰に向けたものなのか、どんな立場の人達の(心に)刺さるんだろう?」という疑問が湧くものばかり。後戻りできない100年に一度の再開発の責任者が今さら読んでも後の祭りだし、70-90年代のサブカルやストリートファッション全盛期を追いかける世代にとっての参考書になりうるほど有益な情報も載っていないし。渋谷生まれ渋谷育ちの芸能人(?)の断片的なエピソードや渋谷の歴史を紐解きながら、社会学的・メディア論的視点に立ち、難解な表現で「渋谷」の魅力を伝えようとする知識人が一方的に語る「渋谷に縁もゆかりもありまくりの、名だたる文化実践者たちの渋谷論を収めた珠玉のアンソロジー(巻末解説より抜粋)が本書ということらしい…。
渋谷愛が強すぎる故、これ以上は語りませんが、最後に言いたいことは、渋谷に「セゾン文化」等は存在しなかったこと。そして渋谷文化の生みの親(育ての親)である渋谷パルコは増田通二氏の創造物であり、決して堤清二氏ではないということ(異論のある方はご連絡下さい)!

【追記】
2026年は増田通二氏生誕100周年にあたり、かつての増田チルドレンたち(筆者を含む有志)が、彼の個人史を制作中(おそらく非売品)。