※メインビジュアルは「石若駿」オフィシャルサイトより

タイトルからして意味不明な書き出しで申し訳ありません。
今回は「東京ローカル」の話題からちょっと離れて、ここ数年日本の音楽シーンを静かに、熱くざわつかせているアーティストの話題を。

石若駿(いしわかしゅん)」。
この名前にピンときた方、「もちろん良く知っている!」と思われた方は、かなりのJ-JAZZ通、あるいはJ-POP/ROCK通と言えるでしょう。彼は、2020年代日本の多様な音楽シーンを支える今最も多忙なミュージシャン/アーティストです。
1992年北海道生まれ。5歳の時にX-JAPANのライヴ映像に衝撃を受け、電子ドラムで練習を始め、10歳の頃にたまたま来道した世界的ジャズミュージシャン、ハービー・ハンコック(key) にその才能を認められ、中学生時代には日野皓正(tp)のツアーに参加するという、知る人ぞ知る一流メンバーとのセッションジャズドラマーという形で華やかな経歴をスタートさせました。

ここまでなら「早熟の天才ミュージシャン」という話で終わってしまいます。
日本では特にクラシックの分野で10代前後に世界的なコンクールで優勝する天才少年・少女も少なくありませんが、いわゆるジャズの分野でいきなり世界的なミュージシャンの目に止まって活躍するケースはかなり珍しい、というかほとんどありません。
その後は東京藝術大学附属高校在学中に、あのバークリー音楽院の奨学生として留学し、帰国後は東京藝大音楽学部打楽器専攻を卒業後現在に至る……ってその「現在」が大変なことになっているわけです。

活動歴の詳細は本人のHPウィキペディア等に譲りますが、やはり特筆すべきは大ヒットした2023年公開の人気劇場アニメ「BLUE GIANT」の登場人物・玉田俊二が作中で担当するドラムパートの実演奏を手掛けたことでしょう。ちなみにこの時のピアノ担当が上原ひろみ、サックス担当が馬場智章でした。
裏方ではあったものの人気アニメのクレジットにその名を刻んだ後、いよいよホームグラウンドのジャズシーンではなく、ロック/ポップの人気アーティスト(椎名林檎/アイナ・ジ・エンド/米津玄師 他)・バンド(くるり/King Gnu 他)のドラマーとして、単なるサポートに留まらない主役の音楽(レコーディング/ライヴパフォーマンス)をアップデートする存在として確固たるポジションを築くことになります。

さらに彼の才能は超一流のドラマーだけでなく、プロデューサーとしての資質も大きく開花しています。
彼の主宰する音楽イベント「JAZZ NOT ONLY JAZZ」が大反響を巻き起こし、一気に日本の音楽シーンの表舞台に登場しました。
タイトルにあるように「ジャズに軸足を置きつつも、ジャズというカテゴリーに収まらない」音楽は、出演者の顔ぶれを見ても一目瞭然。しかも彼はすべての曲でドラムを叩いています!
さらに第1回目は劇場用映画として公開もされました。この映像を観ただけで、日本の音楽シーンの未来と世界でも十分通用する可能性を感じることが出来ます。
直近ではUNIQLOのCF「Let’s Session」に盟友・馬場智章(sax)、Marty Holoubek(bass)等と共にやや控えめに出演しています。
とにかく目が離せない現在の日本の音楽シーンにおける最重要アーティストであることは言うまでもありません。

最後に手前味噌ですが、弊社Long Distance Loveがプロデュースする音楽プロジェクト「TOKYO LAB」ではいち早く彼の才能に目を付け、2017年の第1回目から3年連続参加してもらいました。
ブレイク前夜の彼の壮絶ドラミングが堪能できます →  M/A  https://youtu.be/gA5Mraxj2KI?si=4VvxiMJdp_IgExME

石若駿氏(写真左)と筆者

profile

柴田廣次
しばた・ひろつぐ/1960年、福島県郡山市生まれ。筑波大学を卒業後、1983年株式会社パルコ入社。2004年〜2007年には大分パルコ店長を経験。2018年2月に独立し「Long Distance Love 合同会社」を設立。
■Long Distance Love合同会社
https://longdistancelove.jp
■コラムインコラム
人生初の『群像』購入に寄せて

2025年現在、五大文芸誌と呼ばれる雑誌は『文學界』(文藝春秋)、『新潮』(新潮社)、『群像』(講談社)、『すばる』(集英社)、『文藝』(河出書房新社)らしいです。それぞれが主催する新人賞で才能溢れる作家を発掘し、ベストセラー作品を次々と生みだし、囲い込むためのプラットフォームの役割なのでしょうか。同じ出版社の部署でも、中身の善し悪しはともかく『週刊文春』『週刊新潮』と比較して、ひたすら地味で時間の掛かる作業を余儀なくされる文芸誌関係者は、日々どのようなモチベーションで仕事をしているのでしょうか。
なんてことに興味・関心がほとんど無い自分が、なぜ『群像』2025年10月号に手を伸ばしたのか。「創刊80周年カウントダウン号」に魅かれたわけでも、金原ひとみの創作が読みたかったわけでもありません。理由はひとつ、エッセイを寄せている16人のひとり、今回の本編にも登場する「石若駿」の初エッセイを読みたかったからです。
今の日本の音楽シーンを支え、さらに世界の舞台でも活躍するドラマー/マルチプレーヤー/プロデューサーがなぜ『群像』に寄稿したのか。そもそもこのニュースは本人のSNSで知ったのですが、どうやら自身の音楽創作活動・表現の幅を広げるためにスティックをペンに持ち替えて的な野心の賜物ではないらしく、「担当者から、なんでも良いのでサラッと書いて下さい」と連絡があったからとのこと。歴史ある文芸誌の意図にあまり興味はありませんが、あの石若駿が何を書くのかがとても気になって、遂に『群像』初購入と相成りました。
その内容は…簡単に言えば「どうやって『石若駿』は世に出たのか~その生い立ちと驚きのエピソード」でしょうか。彼の音楽的才能を実感するには、実際のパフォーマンスを観ないことには何も始まりませんが、何も知らなかった『群像』の読者がこのエッセイを読んで、彼の創り出す音楽に触れる機会に出会ったとしたら、こんな奇跡はありません、としみじみ思った次第です。