「第33回 DXとマネジメント #3」からの続き

第34回 DXとマネジメント #4

■DXを進めるためのフレームワークを考えよう!
企業がDXをマネジメントするための正解はありませんが、複数の成功例の分析から次のような共通点を見出すことができます。今回はその視点を4つにわけて確認します。

[戦略]
DX推進企業は顧客との接点を人や技術でつなぐことで、商品の使用状況の把握し、最終的には顧客体験を最大化する取り組みを実現しています。そこでのマーケティングは、顧客の“あったらいいな”の発見と解決を実現する考え方にジョブ理論があり、DXを手段として顧客のジョブの発見と解決を実現しているのです。
戦略のポイントは、自社がDXでどのようになるかの方向性を示すことです。
DXを実現した結果、どのような状況になるのかを構想し、そのビジョンを社員に示すのです。
また、「すること」「しないこと」を明らかにすることも大切です。技術のみにフォーカスして戦略的なビジョンが不足するようであれば、投資したお金は回収することもできず、マネタイズもできなくなるからです。

[組織]
単にテクノロジーを採用するだけでは、DXの効果は発揮できません。DX戦略に基づき、実現するための組織を再構築することが大切です。
組織は常に跡付けで、戦略を実現するために組織を構築していきながら運用します。既存の組織は過去の戦略を実現するためには有用ですが、今後の方針を大きく変える方向性では不適切な場合もあります。

DXではネットワークアプリケーションを構築しながら、顧客体験の最大化を実現していきます。
従来の組織やマインドではギャップが発生する場合が考えられますが、DXの推進で最終的には企業のビジネスモデルの変革までを行うので、現在の組織は見直す必要があるでしょう。

また、DX導入と共に、従来の仕事の仕組みや概念、バリューチェーンなどが大きく変更する場合もあります。
従来と全く異なる発想の事業モデルやアイデアならば、既存の組織体制やマインドのまま導入しても内部組織の反抗によってテストマーケティングさえ行えないかもしれません。フットワークの軽いベンチャー企業や小規模組織が、大企業よりも有利に行動をしているように見えるのは、そのためです。
組織のボトルネックを可視化し、継続的に解消したうえで戦略に沿った組織を再構築することがマネジメントの役割となってきます。

[マインドセット]
大きなマインドセットは、一枚岩のシステムをつくる発想を捨てることです。
そこでは複数のアプリケーションや異なるテクノロジーを柔軟に試し、目的達成に向けて実装するフットワークの軽さと柔軟さが大切になってきます。

アプリケーションネットワークの構築でも、基本的にAPIを複数のプロジェクト間で再利用できるようにします。
万が一トラブルの発生や脆弱性が指摘されたとしても、1か所を修正するだけで済み、解決の手間とコストが低減するからです。

しかし、技術者のマインドセットは結構大変です。技術者は他人が構築した技術を信用せず、むしろ抵抗を示すものだからです。一枚岩方式で時間をかけて構築し、運用してきた文化を持つエンジニアからすると、再利用可能なAPIの利便性は理解できても、実際に活用するためにはマインドセットが必要になるでしょう。
技術者からすると、APIは最後に誰が手を加えて管理しているかが不明であり、正確に管理する方法が難しいと考えがちです。自由に利用することは、無限の責任を負うことにつながると考えるからです。結果的に、全てを自分達で管理する「自前主義」を貫いてきたのです。

このように、DXを推進するためにはあらゆる組織の反発を覚悟しなければなりません。行動しながら、その都度リスクを受け入れ、改善する取り組みが不可欠になってきます。
しかし、この考え方を組織の一部しか持ち合わせていなければ、結果的にマジョリティが勝利し、すぐに元に戻ってしまうでしょう。経営者は組織改革に時間をかけ、継続していくことが求められます。

これはまさにトップマネジメントの仕事になるでしょう。
「2025年の崖」を真剣に捉え、時間をかけて組織マインドをDXシフトにすることが、しばらくの仕事になります。単に優秀なIT人材を買い集めても、組織は動きません。むしろ古い発想のままであれば、すぐに優秀なIT人材は他の企業に転職し、ネガティブな情報が広まることで、次のエンジニアの確保が益々難しくなるのです。

現場レベルでは、組織横断的なコミュニティの形成が有効です。
企業のあらゆる部門の人材がDX戦略の共有を行い、期間を決めてクロスファンクショナルチームを組み、課題解決に向けてアイデアを出し合うハッカソン的な取り組みも有効でしょう。
ポイントは、組織の一人ひとりが顧客体験を最大化する目的でDXシフトに取り組み、役割は違えども共通の目的を達成するチームの一員であることを自覚してもらうことが大切です。

[インセンティブ]
社員が枠組みを超えて顧客体験の最大化に貢献した場合など、評価の仕組みを見直すことも忘れてはいけません。
DX戦略を標榜する組織であっても、人事部は昔と変わらない学歴重視の新人を採用します。STEM(化学・技術・工学・数学)を得意とする人材の獲得や、中途採用を真剣に取り組んでいない組織がほとんどです。従来どおり個々の活動で報酬や昇進を決めるため、従業員が動くインセンティブがDX推進に紐づいていないため動きにくいのです。
クロスファンクショナルチームを形成して顧客体験の最大化に取り組む従業員には、チームで善した成果によって評価をするなど、企業の戦略に紐づく人事を見直すことも大切なポイントです。

「第35回 DXとマネジメント #5」へ続く

profile

早嶋 聡史 氏
(はやしま・さとし)
株式会社ビズナビ&カンパニー 代表取締役社長
株式会社ビザイン 代表取締役パートナー
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事
Parris daCosta Hayashima k.k. Director & Co-founder

長崎県立長崎北高等学校、九州大学情報工学部機械システム工学科、オーストラリアボンド大学経営学修士課程修了(MBA)。
横河電機株式会社の研究開発部門(R&D)にて産業用ネットワークの研究に従事。MBA取得後、海外マーケティング部にて同社主要製品の海外市場におけるブランド戦略・中期経営計画策定に参画。B2Bブランディングの先駆けとして後に知られるようになったVigilanceという力強いブランドキャンペーンを実施。退職後、株式会社ビズナビ&カンパニーを設立。戦略立案を軸に中小企業の意思決定支援業務を行う。また成長戦略や撤退戦略の手法として中小企業にもM&Aの手法が重要になることを見越し小規模のM&Aに特化した株式会社ビザインを設立。更に、M&Aの普及活動とM&Aアドバイザーの育成を目的に一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立。近年、アナログの世界に傾倒すること、価値を見直すことをテーマに、自ら高級スイス時計のブランドであるパリス・ダコスタ・ハヤシマを設立する現在は、売上規模数十億前後の成長意欲のある経営者と対話と通じた独自のコンサルティング手法を展開。経営者の頭と心のモヤモヤをスッキリさせ方向性を明確にすることを主な生業とする。
【著書・関連図書】
できる人の実践ロジカルシンキング(日経BPムック)
営業マネジャーの教科書(総合法令出版)
ドラッカーが教える実践マーケティング戦略(総合法令出版)
ドラッカーが教える問題解決のエッセンス(総合法令出版)
頭のモヤモヤをスッキリさせる思考術(総合法令出版)
実践『ジョブ理論』(総合法令出版)
この1冊でわかる! M&A実務のプロセスとポイント(中央経済社)
【関連URL】
■YouTube「早嶋聡史のチャンネル」
https://www.youtube.com/user/satoshihayashima/videos
■早嶋聡史の戦略立案コンサルティング
http://www.biznavi.co.jp/consulting/strategy_planning

■早嶋聡史の事業実践塾
http://www.biznavi.co.jp/businessschool

■中小企業のM&Aビザイン
http://www.bizign.jp
■月々1万円で学ぶ未来社長塾
http://www.mirai-boss.com/
■独・英・日の時計好きが高じて立ち上げたスイス時計ブランド
https://www.parris-dacosta-hayashima.com/