インバウンド客誘致における九州ならではの課題
──インバウンド需要の拡大に向けた対応についてはいかがですか。
渡邉 国が「ビジット・ジャパン・キャンペーン」という訪日外国人旅行の促進活動をスタートさせた2003年以降、インバウンドは国家施策となり、ビザの緩和などもあって訪日外国人旅行者は全国的に急増しています。中でも九州は、当機構のように他地域に先駆けて複数県にまたがる連携組織を設立できたこともあり、人口減に伴う地域経済の縮小といった危機感の共有や、連携した施策展開など、早くから取り組めたことが成果につながっています。九州は一般的に「1割経済」といわれており、人口も、面積も、域内総生産も、日本全体の10分の1程度なのです。それにも関わらず、訪日外国人旅行者数は6分の1です。九州がアジアから近いということもあるかもしれませんが、九州の観光関係者が頑張ったということも言えるのではないでしょうか(笑)。その一方で、大きな課題もあります。それは、旅行者一人あたりの消費額が伸び悩んでいることです。

──なぜ九州は他の地域よりも消費額が少ないのでしょうか。
渡邉 「定住人口1人分の年間消費額125万円は、外国人旅行者の8人分に等しい」と先ほど申し上げましたが、これは全国平均です。これは金額でいえば1人当たり15.3万円ほどになるのですが、九州に限ってみると全国平均の半分、わずか7.9万円ほどしかありません。その原因は、韓国など東アジアの旅行者が多いことと、クルーズ船(ほぼ中国人)のお客様が多いことです。韓国などは滞在日数が短く、クルーズ船は食事と宿泊が船内のため、上陸しても消費額が少ない状況です。さらに、長期滞在で消費単価も高い欧州・米州・豪州(以下、欧米豪)の訪日客が、比較的に少ないことにあります。
これらの解決策としてまず挙げられるのが、福岡空港をはじめ、まだキャパシティのある地方空港の国際路線を充実させることです。中国路線でいえば、直行便が未就航の北京〜福岡線の新規誘致、そして上海の方々が持つ「九州はクルーズ船で行くところ」という認識を変えていくことです。この他、欧米豪との直行便も就航させようと関係者が取り組んでいます。
また、「儲かる観光づくり」という観点で言えば、滞在日数や消費額を増やすための「ナイトメニューの強化」や、受け入れ側の「生産性向上」もあげられます。これは例えば、布団からベッドに替えて上げ下げの作業をなくしたり、部屋食をやめてレストランで食べることで配膳の手間を省いたりすれば、サービスダウンにはならないと思います。

■新たなコンテンツをいかに見出すか
──欧米豪の旅行者へ向けたPR方法は考え直す必要がありますね。
渡邉 当機構が設立した2005年当時、九州への訪日外国人旅行者は年間63万人でした。その当時は、まずは距離的に近い東アジアの観光客から呼び込もうと考え、そこから「温泉」「食」「自然」といったテーマを打ち出しました。「ONSEN ISLAND KYUSHU」というキャッチコピーをつくったのも2014年です。その結果、2018年には511万人にまでインバウンド客が増えたのですが、そのうち95%以上が東アジアからの旅行客で、欧米豪や東南アジアからの旅行客は伸び悩んでいます。あらたなインバウンド客を増やそうと考えた時、今までと同じ「温泉推し」だけでいいのか、再考する時期に来ているのは事実です。
なお、欧米豪市場をターゲットに九州の観光素材を訴求しようとオランダ人監督を起用して約3分程度の動画を3タイプ制作。約130万回再生をされています。是非ご覧ください。
※以下をクリックすればYouTubeが再生されます。
ONSEN ISLAND KYUSHUサイト(旅する編)
ONSEN ISLAND KYUSHUサイト(自然編)
ONSEN ISLAND KYUSHUサイト(ラグビー編)

──「温泉推し」だけでは限界があるとすれば、どんなコンテンツを推していけばいいでしょう。
渡邉 九州を訪れたことがある訪日旅行経験者にアンケートを取った結果、九州のイメージとして挙がった上位3つは「人が親切そう、人情がありそう」「自然や風景が美しい」「食べ物がおいしい」でした。しかし、これらは他のイメージと比較して相対的に高かっただけであり、北海道でいうところの「雪」だったり、沖縄の「海」だったりという、わかりやすくて絶対的なイメージではありません。さらにいえば、「温泉」のイメージを持っているのは東アジアの方々だけで、他の地域の旅行者の興味は、それほど高くないのです。
地域によって旅行者のアンテナは異なり難しいところですが、このような調査結果をヒントに、自分たちの地域には何があるか、何が出来るか、皆さんで見つけていただきたいのです。長崎ランタンフェスティバルも、湯布院映画祭なども、何百年もの歴史があるイベントではありませんが、自分たちの力で開催にこぎつけ、今ではすっかり地域イベントとして定着しています。文化や歴史は、自分たちでゼロから作っていけばいいと思います。

──ところで、いよいよアジア初のラグビーワールドカップ2019(以下「RWC」)が開催されますね(2019年9月20日〜11月2日)。
渡邉 ラグビーは欧米豪での人気が高く、本大会の出場国・チームも欧米豪諸国が多く、たくさんのチーム関係者やサポーターの来日が期待されています。全国で48試合が行われ、九州では福岡3試合、熊本2試合、大分5試合(準々決勝を含む)と10試合が開催されます。観戦目的で期間中は九州に約6万人以上の外国人が訪れ、そのなかには九州のことを知らない、もしくは九州に初めて訪れる欧米豪の方々も含まれるでしょう。開催期間もオリンピックやサッカーワールドカップ等と比較して長く、ラグビーは激しいスポーツのため、試合と試合の間が34日ほど空くので、その間は九州を周遊観光をする可能性が高いです。

──これは大きなチャンスですね。
渡邉 九州には食、温泉、歴史文化、自然景観など自慢できるものがたくさんありますが、「祭り」でおもてなしすることも面白いのではないかと、九州地域戦略会議ではRWC期間中に「祭りアイランド九州」の開催を決定しました。本事業は、熊本市中心部に九州・山口38団体の祭りを集めた「祭り集結」(9月2829日)と、各地の祭りへ足を運んでいただく「祭りめぐり(周遊促進)」の2本立てによる九州初、九州最大規模のイベントです。大分県関係では「祭り集結」に日田祇園、日本童話祭などが参加。「祭りめぐり(周遊促進)」には城下町杵築観月祭、ケベス祭などが現地で受け入れをいたします。RWCの観戦で訪れた皆さまに地域の魅力を世界へ発信する絶好の機会となるでしょうし、外国人観光客の周遊促進とリピーター化へ繋げていければと考えています。詳細は「祭りアイランド九州」専用HPをご覧ください。

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profile

わたなべ・ふとし/一般社団法人 九州観光推進機構 専務理事 事業本部長/1960年山口県防府市生まれ。1967年湯布院町へ転居の後、1974年から大分市へ。1979年に日本国有鉄道(現・九州旅客鉄道株式会社)に入社し、大分鉄道管理局へ配属される。1996年に本社営業部へ配属。2005年から営業部営業課設備担当課長、営業部販売一課長、営業部営業課長、営業部担当部長を歴任し、観光・宣伝・旅行会社・インバウンドなども担当。2017年4月から現職(出向)。
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