新たな動きを見せる大分観光
──大分県のインバウンド対応を考えた際、既に人気の高い別府や湯布院以外にポテンシャルを秘めた観光地・資源は、どんなところが考えられますか。
渡邉 大分県でポテンシャルが高いのは、九州の自然を肌で感じることができる「豊後水道」エリアでしょう。2018年の春に九州オルレ(韓国・済州島発祥のトレッキング)のさいき・大入島コースを設置しましたが、大分県には他に奥豊後コース、九重・やまなみコースもあり、さらに認知度を高めていきたいと考えています。
竹田の岡城阯も注目されています。岡城阯は特に欧米豪からの人気が高く、当機構の英語版Facebookページでは、2018年の投稿記事で「岡城址・桜」での「いいね!」の数が、九州全域の中で2番目に多かったのです。ここから地域にお金が落ちるカタチを作るヒントになるのは、やはり「食」だと思っています。竹田市は畜産物、農産物ともに大分県トップクラスの出荷額であるにも関わらず、残念ながら市内に有名なレストランがありません。フルーツで有名な福岡県うきは市には全国からスイーツのパティシエが移り住み、生産地に近いところで数多くのショップを展開しています。九州のど真ん中にあり、ポテンシャルは高いのですから、竹田市ならではの取り組みも考えられるのではないでしょうか。

──別府市では地元資本も含め新規ホテルのオープンやリニューアルが続いています。2019年8月には、県内初の外資系高級ホテル、ANAインターコンチネンタル 別府リゾート&スパがオープンしました。こういった傾向について、どうお考えですか。
渡邉 別府は、まだまだこれから伸びるでしょう。外資系5つ星ホテル進出のメリットは、富裕層の会員を多く有している点です。彼らは世界各地の系列ホテルに泊まるので、日本や九州のことを知らなくても、別府を訪れる理由ができるのです。他にも、福岡にザ・リッツ・カールトンホテルが、長崎にヒルトン、鹿児島にシェラトンが開業予定なので、この傾向が続けば、たとえば将来的に九州でG20(20か国財務相・中央銀行総裁会議)クラスの国際会議が開催される可能性も出来たのです。

「オール大分」で関わりを
──別府の名が世界に知れ渡ることになればインバウンド客もさらに増え、地元の観光関係も潤いますね。その時に向けて、私たちも意識を変えていく必要がありそうです。
渡邉 「トリップアドバイザー」という世界最大の旅行口コミサイトがリリースした興味深い資料があります。そこでは口コミ数の多かった観光資源をピックアップしているのですが、鹿児島県の「知覧特攻平和会館」に関する口コミは、同じ鹿児島の桜島や屋久島と比較して相対的に低い評価となっていました。これを見て最初は、「やはり日本の戦争に関する施設にはネガティブな印象を抱くのだろうか」と思ったのですが、実は違っていたのです。口コミの内容を読むと「特攻の歴史に興味があったが、日本語以外の言語がないため意味を理解できなかった」という意見が多く、さらに「この博物館の全てが必見。日本人の友人が内容を翻訳して説明してくれた」というコメントがありました。つまりこれは、多言語対応のパンフレットやガイドを用意することがマストであることを示した証左といえるでしょう。ちなみに知覧特攻平和会館の名誉のために付け加えますと、同館には既にタブレットタイプの「語り部音声ガイド(5言語対応・1台200円)」が70台準備されており、すべての説明を聞くと50分のツアーが設定されています。
このようにトリップアドバイザーの口コミ資料(※)を見ると、いろいろなことが分かってきます。大分県のページだけでなく、他県の観光素材の関心度、口コミ数、評価、コメントを大分県に置き換えてみてもヒントがたくさん見つかります。「この観光資源はもっと外国人にPRした方がいい」「この施設には英語のパンフレットやガイドを用意した方がいい」というふうに、やるべき施策が見えてくるのではないでしょうか。

※九州運輸局 調査事業「欧米豪をターゲットとした九州関心度等の基礎調査」
http://wwwtb.mlit.go.jp/kyushu/content/000093064.pdf

──今後に向けた提言をいただきたいと思います。
渡邉 九州は気候的に温暖で、古くから大陸と交流していたこともあり、比較的開放的でコミュニケーション能力が高い人が多いのではないかでしょうか。
旅は「記憶に残るかどうか」が勝負です。個人的なお話をさせていただくと、私の父はJR由布院駅の近くに住んでいるのですが、旅行者に良い印象を持ってもらおうと庭には薔薇などの花を植えており、毎日のように積極的に旅行者に話しかけています。語学力はまったくないにも関わらずです(笑)。しかし、そのおかげで旅行者にもよい思い出ができているようで、お礼の手紙をもらうこともあるそうで、非常にうれしく思います。
2011年 にJR九州が展開した九州新幹線開業CMが世界中で話題になり、2013年から運行を開始したクルーズトレイン「ななつ星in九州」が継続して好評なのも、両方に共通しているのは九州の皆様の「ホスピタリティ」なのです。「自分はインバウンドなんて関係ない」ではなく、街でキョロキョロ迷っている外国人旅行者を見かけたら、カタコトでもいいので声をかけてみれば相手もうれしいでしょうし、その印象を持ち帰ってSNSなどで発信してくれると、九州のイメージアップやリピーター増につながるかもしれません。
国の目標では2030年には訪日外国人旅行者数を、現在の2倍となる6,000万人を目指しています。これを九州に置き換えると、1,000万人が訪れることになります。そうなると大分県に住む113万人、九州に住む1,300万人で、インバウンドに関わりのない人は一人もいなくなると考えられます。
人口減が進む九州の経済を活性化させ、子どもたちや孫たちにより良い九州を残したいのならば、「交流人口の拡大」は不可欠です。観光や地域振興に係る全ての方がベクトルを合わせ、全体で取り組むべき部分、個別に取り組むべき部分を分担しながら、トータルでよい方向に進んでいくことが理想的だと考えます。

2019年7月

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profile

わたなべ・ふとし/一般社団法人 九州観光推進機構 専務理事 事業本部長/1960年山口県防府市生まれ。1967年湯布院町へ転居の後、1974年から大分市へ。1979年に日本国有鉄道(現・九州旅客鉄道株式会社)に入社し、大分鉄道管理局へ配属される。1996年に本社営業部へ配属。2005年から営業部営業課設備担当課長、営業部販売一課長、営業部営業課長、営業部担当部長を歴任し、観光・宣伝・旅行会社・インバウンドなども担当。2017年4月から現職(出向)。
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